「スフィア」のレビュー
原作は「ジュラシック・パーク」のマイクル・クライトン、小説版は彼の最高傑作とも評される。ラジオドラマ版の評価も非常に高い。しかし、なぜか映画版の評価はイマイチで、SF界からは無かったことにされている。
- ストーリー
心理学者のノーマンは、政府の緊急要請を受けて、海上にある軍の調査船へと急行する。そこには、彼のほかに生物学者、数学者ら即席のプロジェクト・チームがいた。招集の目的は、300年前に海底に墜落したと思われる宇宙船の内部調査であった。深海の宇宙船内で彼らは、金色に輝く謎の球体「スフィア」を発見する。が、そのころ海上は猛烈な嵐が来て、海底で孤立してしまう。仕方なくスフィア調査を続ける彼らに次々と信じがたい恐怖が襲いかかる。
- キャスト最高! なのになぜ?
マイケル・クライトンの原作を、ダスティン・ホフマンにシャロン・ストーン、サミュエル・L・ジャクソンという豪華キャストで描くSF大作! なのに、評価が低い。
当時のチラシのコピーは「あなたがいちばん怖がることを、それは知っている。」
ちなみに、ラジオドラマ版のキャストは、西岡徳馬に原田美枝子,入江雅人とこちらも豪華だ。
- 内容は心理サスペンス
コピーにもあるように、この物語、ジャンルはSFなのに、その実は心理サスペンスなのだ(レムの『ソラリス』をポップにした感じ)。
こころの駆け引きは目に見えにくいから、そもそも映像には不向きだ。数名がパニックに陥る心の内面を想像するのは、小説やラジオドラマの得意分野ともいえる。
ラジオドラマ版では初回から没入してしまう。
映像での心理表現は、憎しみ合い、絡み合う内面を表現するのは不得手なのだ。
- 2つの評価
映画の映像に関しても、真逆に評されている。「海底を漂うクラゲの大群や揺らめく金色の球体など、幻想的な映像美も心に残る」と高評価がある一方で、「物語の壮大なスケールに比べ、映像レベルが見劣りするのが何とも残念」ともいわれる。
- データ
原作小説の出版は1987年。ラジオドラマ版の放送は1993年7月19日~7月30日。映画の公開は1998年だ。
- 物語を楽しみたいなら、おすすめは
映画でもラジオドラマでもなく、小説版だ。とにかくカッコいい。それはもう木村拓哉なみである。問題は、ちょっと厚めの文庫本で二冊あること。
簡単に楽しみたいなら、ラジオドラマ版をおすすめしたい。小説と同じエッセンスが得られる。ただ、密室サスペンスの要素がイマイチわかりにくい。
声のドラマであるから、黙っているキャラがいた場合、この部屋に誰がいて、間取りがどうなっているのか分かりにくいのだ。
映画版は別の演出が加えられている。おそらく、映像化するとテンポがよくないからだろう。映画版が小説版よりも優れているのは、エピソードが省略されているからリズミカルな点だ。
- 小説版は疑問点もあって…
冒頭で水道管が詰まっていたのに、中盤シャワーを浴びまくり。配管がどうなっているのか分かりにくいっす。
映画版ではナッツバーを発見後そのままにしますが、小説版はむさぼり食います。腹具合が心配です。
- 具体的な違い
例えば、研究者たちが話し合うシーン、ラジオドラマ版と映画版はすんなり進行するのだが、小説版では2ページほどもめる。
宇宙船を見て回るときも、そこに書かれた文字を読めるのは小説版だけ。書かれたものを読み取っていくことで小説版は没入感をえられる。
ちなみにラジオドラマ版と映画版では、別物が用意されている。
小説版はガイドブックも兼ねているので、詳しくしりたいなら断然小説版だ。
- 作家クライトンの区切りがカッコいい
小説は冒頭、宇宙船をみつけ、いつ墜落したのかきくと、
「バーンズは答えるのに、ほんの一瞬だが躊躇した。『われわれが推定しうるかぎりでは――』彼は言った。『三百年前です』」
ここでバツっと章が終わる。とにかく、かっけぇ~。しかもそれが上下巻すべてにおいてカッコいい。読書中の10日ほどは、木村拓哉を部屋にかくまっている気分でした。