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「ルパン三世 ルパン対複製人間」「魔術師と呼ばれた男」のレビュー

4月11日、モンキー・パンチ先生が肺炎のため81歳で永眠されました。世代を超えて愛されるルパン三世

先生のお亡くなりになった週末、日本テレビ金曜ロードショーに本作を選んだ。wikiによると、14回目の放送らしい。

 

ルパン三世「ルパンVS複製人間」[Blu-ray]
 

 

1万年もの間、自らのコピーを作り続けながらクローン技術を研究し、永遠の命を追い求めたマモー。ルパンはマモーに囚われた不二子を救うため、次元と五エ門とともに戦いをいどむ。
「俺は夢、盗まれたからな。取り返しに行かにゃあ」
双葉社ルパン三世カルト大辞典」では、編集部が選ぶベストエピソード第2位にランキングされた名作。

  • TV第1シリーズの初期こそ、ルパン!?

黄色いフィアットに乗るルパンのイメージは、贅沢に飽きた三代目という設定を作った宮崎駿。初期は、カーマニアのヒトラーも愛用したベンツSSKに乗っている。
ルパンは50年近く続くシリーズ。ハードボイルドでコミカル、ときにエンタメチックでもある。好きなルパンのジャケット色も別れるところ。
モンキー・パンチ先生はいう「時代にあわせて変化し続けるのがルパン」なのだと。

この映画は、「ルパン三世 ・TV第1シリーズ」の初期に近づけるという意向があった。「大人向けのルパンが見たい」という声に応えて制作されている。
上演当時のパンフレットによると、「『007シリーズ』のスピード・スリル・アクションに加え、奇想天外なアイデアと、『スター・ウォーズ』の大掛かりな仕掛けをかねそなえ、おなじみルパン・ファミリーが大暴れするもの」と書かれている。
さらに、旧シリーズに関わりの深いスタッフを呼び戻した。演出で活躍した大隅(現・おおすみ)正秋氏は不在だが、余計な説明ナシの本物主義は受け継がれている。

  • ルパンらしいSF

冒頭からクローン技術に関する知見が盛り込まれ、SF的要素の濃い作品。
現代は、iPS細胞に馴染みがあるが、1996年にはクローン牛のドリーが話題になり、公開された1978年には体外受精試験管ベビー」が話題となっていた。当時のエポックメイキングな技術だったわけだ。
マモーの秘密を、クローンに設定。しかしクローンにも限界はある。コピーにコピーを重ねると像がぼやけるように、マモーは粗悪品になっていった。それを悟った彼は地球に生きるもの皆が死に、不二子と二人やり直そうと企んでいく。

  • 先輩と後輩

かつてTV番組「トリビアの泉」でもに取り上げられたこともあるが、原作の設定によると、銭形警部とルパン三世は大学の先輩と後輩、らしい。
しかし声を担当したルパン三世役・山田康雄と銭形警部役の納谷悟朗は現実世界でも劇団テアトル・エコー所属の先輩と後輩(所属は山田が先、年齢は納谷が上)で、親友。
山田康雄の葬儀で弔辞を読んだのは、納谷悟朗。銭形警部の声で「お前が死んだら俺は誰を追いかけりゃいいんだ」と怒鳴った。
二人の声の印象は強烈である。

  • 大塚康夫の証言

製作の藤岡豊氏が、ゲスト声優として梶原一騎に書記長役、赤塚不二夫に大統領役、エジプト警察署長役として三波春夫を抜擢した。
突如知らされた監督の吉川惣司は、降板すると言い出す騒ぎになったとか。

三波春夫氏に挿入歌をお願いした経緯らしいが、声をどれほど大切にしているかがわかる。
(名曲「ルパン音頭」 作詞/モンキー・パンチ 作曲/大野雄二 歌/三波春夫)

  • 大野雄二の音楽こそルパン

ルパン三世とは関係ないが、連続ラジオ小説『泥棒は詩を口ずさむ』(ローレンス・ブロック原作)には、ルパン役の山田康雄の声と、大野雄二の音楽がある。これだけでルパン三世っぽい。
それに比べて、ドン・シーゲル監督の映画アルカトラズからの脱出の吹き替え版は意外だった。
クリント・イーストウッド演じる囚人が脱獄する筋だが(傑作です)、吹き替えはイーストウッドといえば山田康雄。刑務所の所長を納谷悟朗というルパンと似た設定。初期のルパンに通じる空気感ももっていた。しかし、全くルパン三世ではない。映画には大野雄二の音楽がないのだ!

  • 4つの「魔術師」から読み解く

1st seriesの第2話「魔術師と呼ばれた男」(1971)は漫画の原作とアニメ、オーディオドラマ、小説と派生していった。
またまた双葉社ルパン三世カルト大辞典」によると、編集部が選ぶベストエピソード堂々の第1位にランキングされている。残念ながら銭形警部の出番がない作品だが、以下冒頭のシーンを比較したい。

「俺を怒らせるとためにならんぞ」とパイカルはソファで寝そべるルパンをみる。ルパン三世のアジトらしい。「渡してもらおうか」。もちろんルパンは相手にせず、逆に挑発する。
パイカルは指先から火を吹き、次はナマリの玉をおみまいしようかと凄まれる。
間合いを取り合うふたり。不二子のいる部屋がバレてしまう。
ドアが開き、マシンガンを撃ちまくる不二子。「俺には通用しない」とパイカルにマシンガンを取られる。
黒焦げのルパンをみて不二子は「頼みがいのない男」といい残し、パイカルのあとに続きでていく。

二人の殺し屋が寝室のドアをあけ、ベッドに寝ている男(パイカル)をマシンガンでハチの巣にする。パイカルが死んだのを確かめ、電気を消して立ち去るが、パイカルは目を開けて起き上がる。
ルパンはのんびり釣りをして、次元は楽しく射撃の練習中。不二子の歌声がきこえる。
次元「やな歌だぜ」
ルパン「あれが? だから音痴は困るっていうんだよ」
次元、昨夜の不二子の現れ方がよくなかったといって回想。取り合わないルパン。
ルパンはごきげんで朝食の用意、鏡をみてネクタイを直す。不二子の部屋をノックすると、階下から次元の叫び声。次元のもとへかけよるルパン、突然現れたパイカル銃口をむける。
ルパン「客を呼んだ覚えはないぜ」
パイカル「つれていく」
ルパン「なんのこったい」
パイカル「女だ」
このあと、撃ち合いと火炎の勝負がはじまるが、ルパンたちの弾丸はまったく通じない。
ドアをあけると、パイカルは不二子にも弾が切れるまでマシンガンで撃たれまくる。一歩ずつ迫るパイカル。平手打ちされ気絶する不二子、パイカルに担がれて連れていかれる。

ルパンが射撃の練習中で、次元は当たったといって喜んでいる。と、標的の前にたつパイカル
ルパン「(略)どけー!」
次元「それとも体に穴ぼこ空けられたいのかよ」
パイカル「空けられるかな、ルパン三世の細腕で」
ルパン「アイツ、俺をルパンと知ってやがる」
次元「銭形警部の部下かもしれん、ルパン撃て」
例によって何度撃っても全く効かない。
パイカル「無駄玉はよせ、ゴミを出すなと知事も言ってる」
ルパン「クッ、クソう。引き金引く指に、マメができたぁい」
パイカル「では、その豆を煮てやろう」火炎が迫る音がして、ルパンたちの悲鳴がきこえる。
不気味でまったりしたジャズがかかりだす。
次元「バケモンだ、宙を歩いてる!」
ルパン「二階の窓に入ってくぞ。いけねぇ、不二子の部屋だ」
次元「さてはあん畜生、峰不二子を狙ってきやがったな!」
ルパン「次元、ぬかるな」
次元「がってんだ」ふたりで廊下を走るが、不二子の助けをさけぶ声がして場面がかわる。

次元に変装したパイカルがルパンに接近。パイカルは次元として、不二子のもつメモをパイカルに返却するようルパンを説得する(アニメではマイクロフィルムだが、小説はメモ)。
変装がバレて、争いになり、物音を聞いた五右エ門が助っ人にくるが、歯が立たない。
ルパンはホテルにいる不二子をたずね、メモを盗むが、そこにパイカルも来て火炎をお見舞いされる。
不二子はパイカルに捕まらない。それどころか、そのあと次元を人質にルパンにメモを要求する。

  • ルパンは変幻自在

冒頭のシーンをみるだけでも、全くちがう。不二子ちゃんのさらわれ方、次元の設定、どれも異なる。モンキー・パンチ先生のおっしゃる通り、ルパンは変化するのだ。
だからこそ、変わらない軸が必要だ。それが音楽ではないだろうか。
(映画の音楽は大野雄二。1st seriesとオーディオドラマ版は山下毅雄)
(2002年『ルパン三世 生きていた魔術師』としてOVA化されたが、続編であり比較していない)

 

モンキー・パンチ先生のご冥福を祈り、謹んでお悔やみと感謝を申し上げます。