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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

100分de名著 小松左京で取り上げてほしい『宇宙に逝く(そらにゆく)』(1978)のレビュー

「活字を越えてサウンド・ノヴェル」がキャッチコピー
ストーリーは、戦火のなか、ただひとり宇宙に投げ出された戦闘機パイロットのジョー、救助されるまでコールドスリープで漂流するのだが、強制的に起こされ船外活動が必要になる。死の危険を感じながら、何かを発見する、シンプルな43分23秒のドラマ。

一度聞けば筋はわかるが、それだけで終わらないのが小松作品。映画『ゼログラビティ』や、ジェミニ計画のドキュメンタリーをみた鳥肌級の感動に近い作品。

宇宙に逝く(そらにゆく)

宇宙に逝く(そらにゆく)

 

(CDの定価は税込¥2,592です)

 

  • 埋もれた傑作

今月「100分de名著」で宮崎哲弥氏に紹介されている巨星「小松左京」は、『日本沈没』『果しなき流れの果に』『地には平和を』『日本アパッチ族』『ゴルディアスの結び目』など、有名作品が多数ある。
『宇宙に逝く』も大傑作だが…。

  •  これこそ宇宙の孤独

そもそも、音のドラマは埋もれてしまいやすい。オーディオドラマの世界は芸術ジャンルのなかでも特殊な位置づけだ。
しかし、CDの解説で小松はいう「SFが触っている世界には、『文章』や『映像』をもってしたのではどうしても表現しきれない部分があるように思う。そこを埋めるものが『音』ではないか、と私はかねがね考えていた。」と。

  • とんでもない工夫

普通に聞いても楽しめるのだが、このCDにはこだわりが詰まっている。
ジョーの感情を見事に演じた劇団四季日下武史氏。横田年昭氏が作曲と演奏で参加。冒頭の数分のため、徹夜作業にまで及んだという。(CDを買うと冒頭の手書き原稿(コピー)が付いてくる!!)
宇宙で戦うパイロットのリアリティー。『スターウォーズ』よりも『未知との遭遇』好きな小松左京による演出に色濃くでている。
コールドスリープに入るときの心臓音と、覚醒するジョーの電気的な心臓音。モノローグ、ああ美しい。

  • 「俺は死ぬんじゃない……さわるんだ……」

「宇宙に包まれる」とか「神に出会う」なんて表現がある。その最新版がここにある。

オーディオドラマだからこそ、さわった気にもなれる。

  • おすすめの聞き方

部屋の灯りを暗くして、なるべくスマホの電源も落として、ヘッドフォンで聞くのがおすすめ(スマホで聞くかもしれないけれど)。

宇宙空間を漂う孤独、宇宙に触ることができる、かもしれない。