G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

「ゲノムハザード」のレビュー 

日韓関係が悪化しているからこそ、取り上げたい壮大なサイエンス・ミステリー大作。日韓のスタッフは、問題に直面すると解決のため知恵を出しあったという。

イラストレーターの鳥山は帰宅すると、リビングに何本もの火のついたキャンドル、かたわらに妻の死体。電話がなる。受話器から聞こえてきたのは、妻の声だった。そこからジェットコースターのように日常から脱線させられる。

「僕の記憶は上書きされた」「誰もが僕を騙している」

似た映画で思い出されるのは、ヒッチコックや『推定無罪』といった作品。ただ、映画を見た後で連想されたのは『チャッピー』。
映像はクリストファー・ノーランや、チャン・イーモウ『LOVERS』っぽいというか…。色がとても印象的。

  • 評価のわかれる作品

映画は、星1の人から星5の人まで均等にいる。小説は、星1と2がなく、3、4、5に評価されている(参考Amazon)。
青春アドベンチャー雑記帳~オーディオドラマ・ラジオドラマの世界」のAkira.さんは、オーディオドラマ版を「AA」と評価されている。

  • キャラ設定、もはや別人!?

原作小説とオーディオドラマ、映画どれも大きく異なる脚色がなされている。そもそも、キャラクターの設定が違っている。
特に主人公を助ける女性。小説はシングルマザーのライターで生活が破綻した人。オーディオドラマでは、恋多き女性ライターっぽくて、映画は謎の韓国人女性記者。同じなのは女性ってことと、近い職業くらいで、性格が微妙に異なりもはや別人の域。

  • どうして変える必要があったのか?

小説は、追い立てれらるように読んでしまうため気にならないが、後で「ん?」となるていどの違和感が残る。後に作られた作品で改善させようとしたのだろうか。
小説の冒頭「匿名のスーパーバイザーに 彼女のサイエンスの知識とアイデアがなければ この小説はうまれなかった」とある。このアドバイザーが主人公を助ける女性のモデルかもしれない。だから、多少無理でも書いてしまった、のだろうか。
もっとも、映画の企画は「韓国で起こった科学者によるES細胞の論文捏造」を映像にしようとしたことが発端らしく、小説とは出発点が異なる。

  • 小さなツッコミどころ

アルツハイマーの研究が出てくるのは、

irie-gen.hatenablog.com
上記と同じ。実験で培養中の危険なシャーレの扱いが雑なのも同じ。本当はこんなものだったりして?

オーディオドラマを聞いていると、「お金どうしてそんなに持ってるの?」と気になって仕方ない。ちなみに、小説では残金が心もとないと説明される。映画では、お金を借りるってことになっている。

  • 比較:タクシーで逃げるシーン

小説
「運転手さん、方角がちがうんじゃないかな」
石神井公園へ行くんでしょう」
「いや。井の頭公園ですよ」
運転手はバックミラーに目をあげた。
「お客さん、石神井公園って言ったけど」
そんなばかなと思ったが、水掛け論をしてもはじらまない。行きたいのは井の頭線井の頭公園のそばだと私は言った。

オーディオドラマ
鳥山「あれ、運転手さん方角が違うんじゃないですか?」
運転手「石神井のほうへいくんでしょう」
鳥山「そうじゃない、井の頭公園ですよ」
運転手「あんた石神井公園っていったよ」
鳥山「そんなバカな」
運転手「バカってことはないだろう」
鳥山「いや、言い間違えたのかもしれないが、行きたいのは井の頭公園なんだ」
運転手(舌打ち)「ったく」

映画
タクシーにのれず、なんと捕まってしまう。

 

  • 主人公の記憶だけでなく、手法も「上書き」されている!?

韓国の映画が嫌いな人、西島秀俊だけを見たい人にはイマイチの作品かも。純粋に映画として見た場合(ツッコんでしまうが)、めちゃ面白い。日本を舞台にした外国映画みたい。
俳優さんの、レベルが高い。キム・ヒョジンさんもよかったですが、イ・ギョンヨンさんの吸ってはいけない空気のような存在感にビビる。至宝、伊武雅刀もさすが。

このブログでいうのもなんだが、おすすめは映画。原作を読んでからもいいが、小説より「オーディオドラマを聞いてから映画」のルートが一番かも。とにかく、映画も小説もオーディオドラマもどれも別物。制作順にみるのもいいかもしれない。