G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

朗読のオーディオブックなら、マイナー俳優さん最強説

 おさない頃の楽しみは、寝る前に読んでもらう本の時間だった。
 なかでもお気に入りは繰り返しくりかえし、その世界に浸って眠る。「もう、好きな本を買ってあげるから、別のにして」と頼まれた覚えがある。
 あの頃の両親とわたしに教えてやりたい、オーディオブックがあるよ、と。

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 わたしは小学校の高学年から入院生活をしたこともあり、異世界へ連れて行ってくれる物語は何よりのたのしみだった。
 自分で本を読めるようになり読書に没頭しつつも、副作用による失明の恐怖もあって、耳で楽しむものに惹かれていった。どうしてもこの楽しみだけは奪われたくない。子どもながらに保険をかけたのかもしれない。
 落語も好きになったが、何より読んでもらう物語が大好きだった。もっとないのか、探しまくった。

 ある日、Eテレ「100分de名著」という一ヶ月に一冊の名作を紹介している番組をみていた。
 番組内に毎回朗読をする人がでる。チェーホフ著「かもめ」の回は、複数の俳優さんによるリーディングという手法なのだと思うが、あまりの面白さに衝撃をうけた。
 さらに、俳優さん一人による朗読になったとき、釘付けになった。印象的だったのは、佐野史郎さんによるラフカディオ・ハーン著「日本の面影」の朗読だった。深い理解をしたうえでの朗読、俳優としての存在感。圧倒的だった。

 俳優さんによる朗読番組に興味をもち、西田敏行さんと竹下景子さんによるラジオ「新日曜名作座」もきいた。中嶋朋子さんのラジオ「文学の扉」もきき、実際に朗読劇のため遠くの劇場へも足を運んだ。

 そしてオーディオブックに出会った。CDも買い、図書館でも借りた。アプリも便利に使ってみた。
 気づいたことがある。顔を知った著名な俳優さんの朗読は、テレビや劇場で見るなら面白いが、なんというか…続かない。面白いのだが、その世界に入っていけない。俳優さんの顔がでてしまう。もっと没入したいのに!

 やがて、わたしは素朴なラジオ番組にたどりつく。
 それがNHKラジオ第2 毎週月曜~金曜 午前9時45分~ 15分間だけ放送される 「朗読」の時間だ。
 どの回もとはいわないが、ずば抜けて面白い回がたまにある。とくに、いま放送している「森鴎外作品集」は素晴らしい。この15分だけで、NHKの受信料1ヶ月分をペイできてしまうほどの虜になった。
 朗読をしてくれているのは俳優の外園ゆうさん。正直、知らない人だった。だがその無名さが朗読にはピッタリなのだ。とくに素晴らしかったのは『山椒大夫』の回。

www.nhk.or.jp

 残念ながら『山椒大夫』の第1回は10月29日、最終回は11月6日まで。

 

 小学生になる娘がいる。宿題で耳にタコができるほど音読を聞かせてくれる。これがパワフルだ。大声で叫ぶように詠み上げる。

 はじめのうちは子どもの音読は可愛らしい。だが、宿題の音読とプロの朗読はこうもちがうのか。当初、素晴らしい朗読を聞きすぎている私には、つらい役目だった。
 それが、同じ話を十回以上聞かされるうちに、耳を疑った。物語が立体的になってきたのだ。

 いいか悪いかはわからない。だが、朗読の奥深さに感嘆している。音の物語には、まだまだ秘密がありそうだ。