古典落語「うどん屋」をオーディオドラマにするなら
ストーリー
寒空に夜鳴きうどんを売るおじさん。結婚式帰りの酔っぱらいに絡まれ、商売にならない。別の場所へいくと呼び声がうるさいと注意されたり、さんざんな目にあうお話。
(以下参考:CD 十代目柳家小三治「初天神、うどん屋」1979年 キングレコード
:DVD 枝雀落語大全第9集「船弁慶、かぜうどん」1982年 東芝EMI)
手前勝手な分析
上方版「かぜうどん」と、江戸版「うどん屋」は似て非なるものです。(三代目柳家小さんが東京に移した云々は他のサイトをごらんください)
つまり、上方版のうどん屋の商売中心か、江戸版の酔っぱらい中心か。視点まで変わってしまうほどの変化です。
上方版では、うどんを食べるシーンをいかに魅せるかに主題があるのに対し、江戸版は人情をいかに魅せるかに主題があります(私見ですが)。
落語とオーディオドラマ
このサイトではじめて落語をとりあげます。落語の面白さの一つに、一銭も使わずに背景を作れる部分があります。オーディオドラマと似ています。
落語は基本一人語りですから、やりすぎては無理がくる。群雄割拠する歴史叙事詩よりは、そこに登場するキャラクターに主眼を置いた人情物が向いているかもしれません。
とくにこの物語に登場する結婚式の酔っぱらい、素晴らしいキャラです。会ったことある気にさせます。
式帰りを描くことで、式の様子もわかる。つまり、そのものを描かずに、想像させるわけですね。
「うどん屋」から連想したオーディオドラマ
2001年3月にNHK‐FMで放送された『井上さんの卒業式』(FMシアター)作:土屋理敬 演出:保科義久 酔っぱらい役を蟹江敬三さんが好演されていました。
こちらは結婚式ではなく、卒業式。自分の子どもの、ある秘密を受け入れる話。蟹江敬三さんの子を思う親の気持ち、世間の風を乗り越える名作。ぜひぜひ再放送してほしいです。
枝雀師匠から学ぶ
桂枝雀師匠はかつて落語のまくらなどで何度も「落語とは約束と想像の芸」とおっしゃっていた。約束と了解の上に成立している物語なのです。
ですから、「きれいな月ですね」といえば舞台のライトはそのままでも、夜空となり月がでる。ライトを調整しなくても、薄暗く感じるから不思議です。
いかにリアルを想像させるか
実はこの落語、うどんを食べるのは、一度だけ。だが、それが実にリアル。本当にあの時間で食べきる人もいるはずです。時間だけでなく、しぐさもリアル。
面白いのは、酔っぱらいのおじさんまでリアルに感じられる不思議体験です。酔っぱらいのおじさんは、何も食べずに行ってしまうのですが、とてもリアルなんです。(江戸版)
コツは関係性?
こちらも桂枝雀師匠がまくらでお話された落語講座。月があるように見える例と、そう見えない例を実演しておられました。シナリオにすると以下のようになります。
☓ダメ
A「見てご覧なさいよ、いい月でしょうがね」
B「あらー」
◯よい
A「ちょっと見てご覧なさいよ、いい月でしょうがね」
B「なんですか? あらー」
コツはBの「なんですか?」にあるという。二人で会話をしていることをおさえてから、月なり第三者をみると想像がわきやすいんだとか。
オーディオドラマでこれを多用すると、少しうざい気もしますが、リアクションは大事ということでしょうか。