「オール・ユー・ニード・イズ・キル」をオーディオドラマ化するなら
※ネタバレがあります。ご注意ください。
ストーリー
宇宙人が攻めてきた。広報担当の将校なのに前線に送られてしまう主人公。装備をつけるが、セーフティロック解除の方法もわからない。やけくそになり敵を巻き込んで自爆、前線に送られた日に戻ってしまう。
戦い、死に、前線に送られた日に戻る。その繰り返し。輸血するまで死に続ける!? ループを終わらせるには、オメガという敵を倒すしかない。次第にスキルアップしてゆくが、輸血されてしまう。最後の望みをかけて戦いに挑む。
宇宙人の侵略よりも、描かれているのは「自分を変えること」。残酷な未来を知っていても世界は変わらない。他人の意見も変えられない(とくに将軍)。でも、自分のスキルは変えられる。メンタルも成長できる!?
ゲームみたいな面白さ
よく指摘されますが、本作は他のタイムループものと少し違っていて、アクションゲームをしているような感覚になれます。
原作者(桜坂洋)へのインタビューでは「ゲームのプレイ日記をネットで見たのがきっかけです。」(*1)とあります。さらに、「ゲーム内で進行する物語ではなく、プレイをして日記を書いた“あなた”を主人公にして、一本道の物語をつくってみようと思ったのがスタートです。」(*1)
どうしても、この映画から「スーパーマリオブラザーズ」を連想してしまうんです。さらに突飛な印象ですが、「絵巻物」を楽しんでいる感覚もあります。横スクロール型だからでしょうか。
ドラマチックな映画なのに、平坦な場面の繰り返しといいますか。ユニークな味を持っています。
ドッキリを仕掛けているような感覚
漫画版を読んでみると、主人公たちはもっと若く、爽やかな青春ものにも読めます。映画版では、もっと油臭いといいますか、トム・クルーズがダメで嫌味な男を演じています。
戦争の広報を担当する少佐で、実戦経験はなさそう。臆病というか、卑怯な印象のキャラ。
いくらトム・クルーズでも若い兵士を演じるのは無理があるからでしょうか。そんなトムが次第に戦士に育っていきます。
だから、後半になると、感情移入してしまう。「ほらごらん、うちのトムはこんなに強いんだから、死んでも平気なんだから!」と得意気になってしまうのかもしれません。
重そうな装備
偽物ではなく、本当に重そうな装備を身に着けているからこそのリアル。ただ、オーディオドラマを考えた場合、これを表現するのは骨の折れる作業かもしれません。
いったん、タイムループの設定を横に置いておくとします。さらに、これらの装備のことも横に置いておきます。こうしたギミックがなければ、実はとても単調な物語です。平凡なサラリーマンが、スキルアップして強い敵を倒すってだけの話です。
だからこそ、細かいギミックの積み重ねを疎かにすることはできません。この映画の面白さはそこですから。
もちろん、平凡な主人公だからこそ感情移入しやすいと思います。広告の仕事だろうが、配管工(マリオの職業)だろうがなんでもいいわけです。
オーディオドラマはリスナーが勝手に「イケメン修正」してくれます。ですから、あえて修正なしで、ギミック満載の音を作らなくてはならない、のでは?
こうすれば?
オーディオドラマ版のストーリーを少し考えてみます。
朝の通勤電車、うとうとして、目を覚ます。名前は知らないけれど、いつも同じ車両に乗る顔見知りがいる。会社に着く。エレベーターのドアの前にたって、階数を眺める。職場、あいさつ、同じ机、同じ毎日。でも、手帳を確認すると、一週間前! 娘の生活発表会に間に合う! 妻の誕生日もお祝いできる! やり直せるんだ! でも、飲み会に誘われて…。また、通勤電車! ヤバい、間に合うのか(つまらないですね)。
習慣になってしまった日常生活。実は何気ない一日一日が素晴らしいんだ、大切に生きよう。一日で死んでしまう虫だっているんだぞ、なんて言われても…。ダメなんですね。
そんな毎日をスリリング(ノルマンディ上陸作戦クラス)に重ねることで、体験したことのないジェットコースター作品になるのかもしれません。
なら、こんなのは??
連想する作品に、NHK FM青春アドベンチャー【作】東憲司『隠しの国』2020年8月31日~3週間放送、があります。平凡な中学生が何度も繰り返しみる夢。夢の世界では彼は暴君。夢はいつも同じシーンのはずが、夢でみた人に現実で会ってしまって、物語が動き出します。
タイムループものというか、パラダイムものというのでしょうか。
謎の習慣を中心にしたら面白いかもしれません。戦闘シーンのギミックを効果音で表現するは大変でしょうから、もっと想像しやすい平凡な毎日。そこからいかにはみ出していくか。
個人的な話で恐縮ですが、子供のころの妙な家族の習慣話をひとつ。
月に一度、土曜の夕方になると近所の洋食店に連れて行ってもらっていました。毎月同じようなものを注文する父と母。わたしも、ビーフシチューとパンのセットにバナナジュースがお決まりでした。
なぜか店のレジ横に中世ヨーロッパ風の甲冑(全身)が飾られ、暖炉がある風の壁には剣と盾がかけられていました。会計時、私はいつもその甲冑を少しだけ触ってみるのです。
ある日、甲冑の兜についたお面部分(バイザー?)をあげようとして、父に止められたのを覚えています。中の顔が見たかったのか、駆動音が聞きたかったのか。「グワシャンッ!」ってあれです。
オーディオドラマのギミックとしては、いい音になりそうですよね。
仮面を手にしてもしあの仮面のマスクをあげられていたら、きっと私は中世ヨーロッパの戦場にいたことでしょう。そして、…。これも、いまいちですね。難しいな。やっぱ、宇宙人が攻めてくるのが一番かもですね。
*1:映画パンフレット『オール・ユー・ニード・イズ・キル』松竹株式会社、2014
*2:桜坂洋,竹内良輔,安倍吉俊,小畑健『All You Need Is Kill 1』集英社、2014