G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

「字のない絵本」をオーディオドラマに!?(後編)

 字のない絵本は、オーディオドラマ向きでは? 文字情報がないために、能動的に空想する。それは体験となる? これは、オーディオドラマと共通では??

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字のない絵本を7作品ご紹介(前編で2作紹介済)

NHK-FM「FMシアター」向け

ショーン・タン『アライバル』河出書房新社、2011

アライバル

アライバル

 

 発展を遂げた不思議な世界に移民する男とその家族の話。幼い娘と妻の3人ぐらし。ドラゴンの尾っぽのような雲が漂う町で貧しい暮らし。父親だけが、妻と娘より先に船で新天地へ。不思議な記号の書かれた国へつく。町の鳥は羽が短く、猫は顔が梟のようで尻尾は猿に似ている。オウム貝が野良犬のうように歩き回る。
 下宿先をみつけるが、ベッドに大型のリスのような、魚の顔をしたような、動物が遊びにくる。この町に家族を呼べるのか。

 サイレント映画のような世界。裏表紙には「~イラストで語られる小説(漫画ではない)~」とある。
 空想する余地がたっぷりある。音にしたとき、汽笛など実際は知らないけれど懐かしい音と、ドラゴンの動く音がマッチすれば、最高の作品になりそう。

・R1、R2、NHK-FM「音の風景」向け

西村繁男『やこうれっしゃ』福音館書店、1980

やこうれっしゃ (こどものとも傑作集)

やこうれっしゃ (こどものとも傑作集)

  • 作者:西村 繁男
  • 発売日: 1983/03/05
  • メディア: 単行本
 

 上野駅。夜行列車に荷物を積み込む配送業者や、スキー客、家族で帰省する人。寝台車の横、小型の売店が店を出している。
 出発した夜行列車の中、きっぷを拝見にまわる案内係の人、お酒を飲みだす男たち、連結部分では恋人と語らう若者。漫画をよんだり、トランプをしたりしながら夜が更けていく。
 真夜中、弁当をたべる若者、夜泣きする赤ちゃん。眠れずに、窓の外を眺めるひと。
 伸びをするひと、おむつをかえるお母さん、一服する老人。外はまだくらい。
 ひげを剃りだす人、顔をあらう女性。

 列車を外から見守る整備員たち。到着。出口にむかう。

 この素晴らしさ、音だけでも楽しみたい。

 

太田大八『かさ』文研出版、1975

かさ (ジョイフルえほん傑作集 10)

かさ (ジョイフルえほん傑作集 10)

  • 作者:太田 大八
  • 発売日: 2005/02/01
  • メディア: 大型本
 

 雨の日の公園を横目に、赤い傘の女の子が歩いている。彼女には大きすぎる男性ものの傘をかかえて。傘をもってお迎えにいくらしい。

 ケーキ屋さんのショーウィンドウが気になり、つい端からみてしまう。駅が見えてきた。お父さんに傘を渡す。

 赤い傘はお父さんがもつ、女の子は? 大事そうにケーキを抱えてあるく。お父さんの傘が彼女も覆っている。やや小雨になっている。

 雨と赤い傘、ソール・ライターの写真みたいな世界。字だけでなく、色彩が女の子の傘にしかないため、彼女の行動に注目していると、心情が伝わる。町の雑踏の音と、雨の中あるく音、傘に風があたる音などききたいものです。

・これは無理っぽい

イエラ・マリ『木のうた』ほるぷ出版、1977

木のうた (海外秀作絵本)

木のうた (海外秀作絵本)

 

  一本の大きな木の、一年間を定点観測のように描く。
 はじまりは、冬。雪がつもり、枝しかない。ように見えるが、動物が冬眠している。起きた。新芽がでている。春だ。鳥がやってきて、巣をつくりだした。夏だ。草が生い茂り、昆虫も活発に動き出した。秋だ。木はドングリ(?)をたくさんつけた。葉の色がかわり、雑草は葉を落とす。また冬がやってくる。

 最後のシーン、点描で表現される。一本の木が、美しく、力強く、確実に動いている。よくわからない感動。これは、視覚からくるものかもしれません。


ピーター・シス『マットくんの ふねふね ヤッホイ!』BL出版、2000

マットくんのふねふねヤッホイ!

マットくんのふねふねヤッホイ!

 

  ソファーに座った男の子が妄想遊びをしている。目の前に水たまりができて、空に渡り鳥(?)ソファーに置かれた棒でつつけば、水面が円をえがく。オールにもなる。カヌーで川下りだ。洗濯物(?)を引っければ帆をはることに。何個かやれば大型帆船の完成だ。しゃがんで座ると潜水艦。豪華客船だってできてしまう。
 おや、吸い込まれる音がする。ママの掃除機だ。掃除機のホースとコードの中で、船の絵本を読んでもらう。
 子どもの妄想は、飛び石のようで、物語性は薄い。さらに、子どもが遊ぶ音はするのだが、一人遊びであるので、オーディオドラマでやると、地味かも。

探しものごっこ

 オーディオドラマとは、なんだろう。読者の想像力を借りるお話? 読者がアクションをすることで成立する物語?
 字のない絵本から考察すると、「ウォーリーをさがせ」も似た系譜かもしれません。ながめるだけでも楽しいのですが、探し物をするとその世界を掘り下げて楽しめる。
 無理やりやらせるのではなく、自然にやりたくなる物語。ごっこ遊びみたいなものかもしれません。