G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

映画「ノア 約束の舟」をオーディオドラマ化するなら

 まさか「ノアの方舟」をみて、『シャイニング』を思い出すとは思わなかったです。
 ラッセル・クロウの暴力性、アンソニー・ホプキンスレクター博士っぷり、ただただ怖い(アンソニー・ホプキンスは何もしないけど)。
 俳優の魅力はもちろん、大雨や洪水のイメージ、湿った木造の方舟が軋む音、ドロドロで骨太の人間ドラマ。どれもが、オーディオドラマで聞きたいポイントです。

ノア 約束の舟 (吹替版)

ノア 約束の舟 (吹替版)

  • 発売日: 2014/09/10
  • メディア: Prime Video
 

※以下ネタバレがあります。

ストーリー

 ノアは悪夢をみて家族で旅に出る。移動中、イラという女の子を救う。父から種をもらい、元天使で今は岩の巨人(以下巨人)の助けをえて、方舟をつくる。無数のツガイがやってきて、方舟で眠る。
 カインの末裔(以下カイン)が兵隊を引き連れて乗せてくれと頼む。カインの野営地をみるノア。そこはこの世の地獄。誰にでも悪は潜んでいるとしる。
 大雨が降ってくる。カインの兵隊たちは方舟を襲い、巨人たちと争いになる。カインだけがこっそり乗り込む。あとの全員は洪水に襲われる。
 船内、イラがノアの長男の子どもを身ごもる。全員死ぬつもりだったノアは怒り、女の子ならすぐ刺し殺すと断言。皮肉にも、双子の女の子が生まれてしまう。
 生まれたばかりの孫を殺そうとするノア。赤ん坊をみて、どうしてもできない。陸に到着する。こっそり生きていたカインとノアの対決。カインを匿っていた次男が、カインにトドメをさす。
 新しい島。ブドウを酒にして飲んだくれるノア。砂浜に裸で寝てしまう。次男が出ていき、夫婦は久しぶりに手をとりあう。

「聖書」創世記を確認すると

「さてノアは農夫となり、ぶどう畑をつくり始めたが、彼はぶどう酒を飲んで酔い、天幕の中で裸になっていた。」

とあります。(『聖書』「創世記」第9章、日本聖書協会
 やりきれなかった任務の責任を感じてやけ酒でしょうか。それとも、なにはともあれやりきった安心感からバーンアウト症候群になって酔っぱらったと解釈するべきでしょうか。
 まあ酒を呑んで裸で寝ただけの話なのですが(だけってこともないが)、やったのがノアだという点が驚き。あと、急に? という意外性があります。シナリオライターとして、物語に組み込みたくなったのでしょうか。
 聖書には妻の名前もありません。イラとのあれこれもフィクションです。もしかして、ぶどう酒を飲んで酔い、裸になったところからアイデアをもらって芋づる式に書かれたんじゃないかな、なんて。

f:id:irie-gen:20210326062001j:plain

カインの末裔は現代のヒーロー?

 カインの言葉は現代のアメコミ・ヒーローが言いそうな台詞をいいます。

・「生き死には自分たちで決める! 団結すればできる!」

貴重な鳥を食べたカインを咎めると、
「俺という人間は一人だ」

・「この世は、お前のものだ。つかみ取れ!」

などなど。

 逆に、主人公であるはずのノアは、息子から「気は確かか? 僕の子どもだぞ!」と罵られます。(孫を殺そうとしたのですから、当然です)
 この対比、面白いですよね。
 ノアを演じるラッセル・クロウがとにかく怖い。『シャイニング』をみたときの怖さに似てます。守ってくれていた人が急に狂ってしまうのですから。
 さらに面白いキャラクターは、特別な力をもっているアンソニー・ホプキンスです。野いちごが好きという孫の言葉に触発され、地面を這い回り野いちごをさがします。孫にプレゼントするためではありません、自分が食べたくなったからです。

 やっと野いちごを探し当て、急いでパクっ。ふと前をみます。どうしたの? 迫る洪水。飲み込まれてしまいます。この方も、ヒーローの側のキャラクターというより、レクター博士よりな気がしてしまいます。

構成は「昔話法廷」といっしょ!?

 映画の構成を考えると、NHK「昔話法廷」を連想します。この番組の説明には「判決の出ない異色法廷ドラマで、“ 考える力”を養う!」https://www.nhk.or.jp/school/sougou/houtei/ とあります。無料で配信中。
 誰もが知る昔話を現実に落とし込んで、裁判形式にしています。
 これとアイデア的にはよく似ているのではないか、と。よく知られる「ノアの方舟」に人間ドラマを足して現実に落とし込む。さらに薄くアクションホラー形式をかぶせている、のではないでしょうか。

 ということは、この構成を使えば、他にも面白い物語ができるかもしれません。例えば、有名なラジオ番組の裏側に人間ドラマを入れて生なましく描いたら、面白いかも。いやそれは『ラジオの時間』か。