オーディオ フィクション アトリエ

〈火曜日に更新〉文責:入江玄

最近のFMシアターで1番の名作『ワンさんは働き者』

 「FMシアター」をご存知だろうか。音声で体験する映画と言ったところだ。NHK-FMで土曜夜10時~50分間放送されている。

 たまに映画を超える体験をさせてくれる超名作が現れる。残念なのは、一週間の聞き逃し配信のあとは、この世から消えてしまうことだ。もったいない。
 わたしは、ラジオ英会話を学ぶように毎週録音している。録音を何度も聴き、楽しむためだ。動画配信サイトに流している人もいる。気持ちはわかるが、アウトだろう。
 そこで、ブログで取り上げてみたい。再放送されるかもしれないのに、ネタバレしてしまうが、そこは文字だけなのでご容赦願いたい。

www.nhk.or.jp

ストーリー

イントロ 

 寂れたラーメン屋に、ドアを蹴破り入ってくる青年。おずおずという「バイト、雇ってください」と。怒る主人にとりなす奥さん。話し方から、外国人っぽい。名前をきくと、答えに迷いつつ「わたしは一つ、ワン」「ああ、ワンさん」と受け入れられる。
(これが冒頭の5分。ラーメン屋の世界へ引きずり込まれます。とくにワンさんの声が最高。「雇ってくれるぅ?」とか、いい人そうなのが目に浮かぶ)

 

前半
 バイト初日は和やかに終わる。夜、住み込みバイトのワンさんは屋根にのぼり歌を叫びだす。太陽を讃える太陽音頭だという。近所に迷惑を詫びる夫婦。
(もう面白い。これから、こんなテンポのノリが聞けるかと思うとワクワクする。)

 

 美味しいラーメンを作れるようになったワンさん。店が活気づく。ある日の早朝、防護服の人たちがやってきて除染を行う。ワンさんが原子力使用済み燃料を、燃えるゴミの日に出したからだ。ここへ来るまでに使ったという。「火をつければ燃える、燃えるゴミの日」だと。
 怖がるラーメン屋のご主人と奥さんに、ワンさんは「みんな宇宙人」と。心の壁を作らないで、と頼まれる。何のために来たのか問いただすと「働きに来ました」と。人柄に問題はないので、そのまま雇い続けることに。
(ここで、ワンさんが宇宙人だとわかる。少し変だとは思っていたけど、まさかラーメン屋に? なんのために着たのか。信じていいのか。心の壁を作ってしまいそうになる。)

 

 宇宙人のワンさんは、困りもの。猫で出汁をとってみようとしたり、部屋を爆発させてしまったり。
 とっておきは、テレパシーを使い各お客の個人情報をみてメニューをアレンジしてしまう。これには奥さんも怒り出す。「疲れちゃって」つい怒ってしまった。夫婦で話したいから少しの間外で待つように頼まれるワンさん。雨のふる中、残念そうに外へ。
(引き込まれ、ワンさんの味方になってしまう。悪い人ではないのが、伝わってくるからだ。ラーメン屋のご夫婦にも何か過去がありそう。)

 

後半

 奥さんは、子どもができなかった気持ちを知られたくなかった。もう一度やり直そう、ワンさんを呼びに行くのだが、居なくなってしまった。
 ガランとした店内。不安になって待っていると、温泉の水をかついで帰ってくるワンさん。疲れた奥さんをいたわり、温泉の水を汲んできてくれたのだ。奥さんの感謝の言葉がテレパシーなしで伝わる。感動するワンさん。また、やり直す。奥さん「同じ宇宙人だものね」と。
(文字に書くとこんなものなのに、正直に告白しよう。初めて放送を聞いたときは、泣きそうになるほど感動した。ラーメン屋のご夫婦も名演なのだ。これで終わりかと思って時計をみると、まだ35分。いつもの放送以上に満足した、これからの展開を考えようとするが、何も思いつかない。
 昔、Eテレで放送された『アルフ』を思い出す(猫の出汁で連想したのかも)。
 もう、満足したよ、完璧だよ、台無しにしないでくれ、と願いつつ、続きがはじまる。
 なんと、ここからは反論だった。)

 「帰れ」と外から声が聞こえる。近所の公園に溜まりだす暴徒たち。パトカーがやってきて、鎮めようとする。宇宙人であることが世間にバレたらしい。
 ワンさんを匿う夫婦だったが、そのワンさんがいない。
 公園に助けにいく夫婦がみたものは、ワンさんが出した屋台だった。実際にワンさんの人柄に触れて、治まる暴徒たち。
(そうそう、いい人なんだよワンさんは! わかったかコノヤロー。という気分。…ラーメン屋さんって屋台もっているものなの?)

 

 順調に営業を再開、ある混雑した日。ご主人が「身体が2つほしいわ」と言ったことがきっかけになり、「私、なんとかします!」と分裂するワンさん。2つになるつもりが、気合いが入りすぎて億単位に増えてしまう。ワンさんは群体だったのだ。
(ん? なんて? どういうこと? このラストになにやるの??)

 

エピローグ

 日本中、いたるところで働くワンさん。ワンさんと交流を深めるため太陽音頭を踊って終わる。
(なんという後味。映画『第9地区』を超える体験。ラストの意味はどういうことなんだろう。ちくしょう、太陽音頭が頭から離れない。面白すぎる!!)

なぜインタビュー形式?

 物語はインタビュー形式ですすむ。なくてもいいような気もするのだが、どうしてインタビューをちょいちょい挟むのか。わたしの勝手な考察だが、とんでもないラストの伏線になっているのではないだろうか。
 この大事件をインタビューしなくてはならない。さらに緊張感を持続することもできる。インタビューすることで、ワンさんいい人だけど何か起こるのか、と。最後の事件まで引っ張れる。
 逆に考えると、億単位に増えたワンさんに、大混乱していない。このインタビュー程度なのが気になる。なぜエピローグでパニックになった日本を書かないのか。

すばらしき侵略生活

 よく考えてみれば、働きもののワンさんに侵略されたわけだ。仕事を奪われると恐怖する人もいるだろう。いくらワンさんがいい人でも、大混乱するのではないか。だが、こんな可能性もある。「ベーシックインカム導入」だ。
 ベーシックインカムを簡単にいってしまうと、すべての国民に毎月一定のお金を配る社会保障のこと。国からお小遣いをもらう感じだ。
 なんといってもワンさんは働き者で、正直な人だ。億単位に増えたワンさんがいてくれれば、ベーシックインカムの可能性は大いにある。働き者ワンさんのおかげで国民は労働から開放される可能性がある。
 映画『宇宙戦争』でみかける、暴力で搾取する宇宙人とは真逆の発想だ。これなら侵略されてもいい気がしてしまう。太陽音頭を歌いたい。ある意味、『宇宙戦争』の亜種なのだ。私はスピルバーグの『宇宙戦争』も大好きだが、こちらの方が感動した。ラーメン屋を表現することで、あの映画を超えるなんて、すごいと思う。
 そんな気にさせてしまうのも、声だけによるオーディオドラマのすごいところだ。

 

NHKさま

 有料配信かCD化を希望します。せめて再放送をお願いします。