ロバート・デ・ニーロ主演『ミッドナイト・ラン』を分析
「追いかけっこ」がベスト
デ・ニーロ自身が「1番好きな作品」と惚れ込んでいるシンプルな名作です。マーチン・ブレスト監督、ロバート・デ・ニーロ主演の『ミッドナイト・ラン』(1988)。
ざっくり内容を説明しますと、賞金稼ぎの主人公が心優しい犯罪者を目的地まで連れていく話。途中にさまざまなことが起こり、友情が芽生えます。
シンプルな「追っかけっこ」が1番面白かったりしますよね。逃げる、追いかける、逆に追う。何故か人間はこの連続を楽しく感じるようです。
本作では、飛行機のファーストクラスに乗り(すぐ降りるけど)、個室のある列車に乗り、長距離バス、ワゴン車に貨物列車。ヒッチハイクもするし、パトカーやギャングの車にも乗せられます。
引用は以下を参考にしました
*1;DVD『ミッドナイト・ラン』ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン
*2;パンフレット『ミッドナイト・ラン』松竹株式会社、昭和63年12月10日発行
キャラの配置が完璧
パンフレットをみると、ジャックとデュークの写真ばかり(*2)。ですがこの作品、彼ら以外のキャラクターの魅力も大きい。
追いかけるFBIにギャングたち、同じ賞金稼ぎのマービン、マスコーネ保釈ローンのお二人。あと忘れてはならないのが、主人公の別れた妻と娘さん。
映画を初めて見たときは、主役の二人でずっといるイメージでした。今回シーンごとに分析してみると、とにかくコロコロと展開します。短いシーンで繋がれていたんですね。
主人公以外のキャラが変わる
主人公の精神が後半で成長したり変化するのはよく見かけます。この物語、そんなことはしません。主人公は、一貫して正義感はあるが融通のきかない人です。その上、やたら怒りっぽくて行動力があります。
変化するのは、相手のデュークのほう。はじめ神経質で繊細な男かと思いきや、次第にギャングから大金をかっぱらっただけの豪胆さを持ち、頑固な男だとわかります。ロードムービーだからこその演出。相方の変化に戸惑う主人公って面白いですよね。
主人公に深みを与える何気ないシーン
映画の構造は「西部劇からの伝統」とパンフレットで評するのは、筈見有弘氏(*2)。「大体バウンティ・ハンターという存在そのものが西部劇に結びついていく。」といいます。
「西武のバウンティ・ハンターといえば、家族もいないさすらいの一匹狼と相場が決まっていたが、ロバート・デ・ニーロの演じるジャック・ウォルシュもまた妻子と別れた孤独な男で、ヤクザな稼業とはそろそろお別れをし、こんどの仕事で得た金を元手にコーヒーショップを始めようと考えている。」(*2)
彼の夢はコーヒーショップを開くことです。ですが、会計士のデュークに飲食業への投資はやめたほうがよいと言われてしまう。
映画が始まって1時間37分40秒ごろ、ジャックはマービンにデュークを取られてしまします。悔しさを滲ませ、コーヒーショップへ。
店員「いらっしゃいお客さん」
ジャック「やってるのか」
店員「年中無休ですよ。お疲れですか」
ジャック「ここずっとね」
店員「よくわかりますよ」
ジャック「コーヒーもらえるか」
店員「わかりました」ライターのオイルがなくなったのか、火がつかない。店員さんがマッチで火をつけてくれる
ジャック「ありがとよ」
店員「いいえ。どうぞ」マッチをくれる。テーブルの上をサングラスが滑ってくる。みればFBIや地元の警察官たちだ
ジャック「あったか、ずっとこいつを探してたんだよ。あんがとさん」
とサングラスをかける(*1)
ジャックの夢はコーヒーショップを開くこと。つまり夢の店に入るのですが、繁盛しているとはいいにくい。コーヒーショップをやっても、うまくいかないだろう。そんな気配がします。
タバコを吸おうとするがライターの火がつかない。やる気を無くしてしまったジャックの心情でしょうか。
ですが、しんみりさせるのはそれで終わり、FBIとのやりとりで軽妙に戻してくれます。これがなぜか嬉しいんです。
ネタのもと
パンフレットのプロダクションノート(*2)によると、この企画は監督と脚本家の世間話がヒントになったという。脚本家が、監督に重犯罪者を護送した友人の警官の話をしていた。「飛行機に乗ると、その犯人は飛行機は苦手だと言い出し、結局、彼等は他の交通手段を使うことになったという~」これだけで、ピンときた監督は映画にしたらしい。
ラジオドラマにすることを考えると、二人の旅の話は聞いてみたい。以前、朗読で宮本輝『五千回の生死』を分析したことがあるが、同じパターンではないでしょうか。
最近のデ・ニーロのロードムービーなら『ダーティ・グランパ』を連想します。こちらは下品で最高に楽しいが、本作ほど心に残りません。
『ミッドナイト・ラン』はどのシーンも素晴らしいが、特にラスト。あのシーンが全体を支配し、二人の運命をも支配してしまいます。普通の映画と違う点は、ジャックが最後にとる行動です。それに対するプレゼントも素敵ですが、彼がロスまで着いたのにあの決断をするところが実に感動的。何度みても、気持ちいいんです。