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〈火曜日に更新〉文責:入江玄

「ノートルダムの鐘」はどうして面白い? フロローの魅力とは

 ディズニーは実写版『ノートルダムの鐘』を制作中なのだとか。幾度となく映画化、アニメ化された『ノートル=ダム・ド・パリ』。正直な話、ストーリーだけ追いかけると、何が面白いのかイマイチわかりません。なのに人気がある。わたしも、あの世界に惹きつけられます。どうしてなのでしょうか。
 ディズニーが1996年に制作した『ノートルダムの鐘』を中心に考えてみます。

ストーリー

 街のシンボルであるノートルダム大聖堂。鐘つきのカジモドは、町の権力者フロローに育てられている。醜い容貌なので外へでてはならない、といいつけられて。
 年に一度のお祭りの日、近くで見たいカジモドはこっそり出かけてしまう。醜い人間を王にするコンテストがひらかれており、カジモドは選ばれてしまう。

 王様気分だが最後にトマトをぶつけられ、ひどいめに。カジモドは助けを求めるが無視するフロロー。そこへ超絶かわいいジプシーの女性エスメラルダが来てくれる。フロローは彼女を逮捕せよと命令する。
 恋に落ちるカジモド。エスメラルダ逮捕のピンチを匿い、逃がす。だが、エスメラルダはしつこく追われる。彼女を捉えるためなら町を燃やしても構わないというフロロー。
 捜索の途中、元兵隊長のフィーバスと恋に落ちるエスメラルダ。フィーバスはフロローの無理難題についていけずクビになっていた。
 フィーバスとカジモドはエスメラルダを救うため、ノートルダム大聖堂で奮戦する。(*1)

なんのこっちゃ?!

 いきなりですが、この話を日本の高校生に置き換えてみます。
 高校の学園祭。生徒会長で親がPTA会長の真面目なフロロー青年は、チアリーダーでエキゾチックな美人エスメラルダに密かな恋をしていた。学園祭当日、フロローの幼馴染でオタクの嫌われ者カジモドが人気者になってしまう。なんとエスメラルダまで夢中だ。
 フロロー青年はご立腹。エスメラルダの校則違反をでっち上げ、退学させようとする。彼女をかばうのは、サッカー部エースでイケメンのフィーバス。退学か、自分と付き合うか迫るフロロー。
 オタクのカジモドと、エースのフィーバスは手を組み、美人エスメラルダを助ける。美人はオタクに感謝だけして、エースと付き合い、幸せになりました、という話。
 とりとめのない話といいますか、…しょうもないですよね(置き換えた私のせいです)。ですが、アニメ映画は間違いなく面白い。なぜでしょう。

楽しみ方がちがう?

 鹿島茂氏はテキストの「はじめに」においてこんな指摘をされています。(*3)

本来なら音読されるべき作品なのです。そして、この音読性という点において、ユゴーの小説とりわけ『ノートル=ダム・ド・パリ』は口承文芸である神話や叙事詩に近づきます。

 さらに、物語というものがそもそも変容していることも指摘されています。

読者に「これは私のことだ」と思わせるような近代的な作品とは異なります。むしろ、匿名の参加者がいくらでも変奏しリメイクすることが可能な集団的想像力の場であると言ったほういいのです。

 この指摘もありましょう。魅力は別のところからも感じます。
 ユゴーが本作にこめた真の狙いもあったようですが、ここでは割愛します。知りたい方は鹿島茂氏の著作か、岡田斗司夫ゼミ(You Tube)をオススメします。

どの視点から?

 どこに魅力があるのか、多様な視点から物語の世界を妄想してみます。
 イケメンのフィーバスからみた物語はどうでしょうか。…輪をかけて、しょもないですね。エスメラルダからみた話も同様(制作されたことがあるらしい)。
 たしかに、オタクからみた物語が一番しっくりきます。叶わない恋。でも、一瞬でも必要とされた。いい振られ方をしています。
 鹿島茂氏によると(*3)、「モテない男の純愛は報われない」とそのままです。
 でも、私としては、フロローが一番気になるんです。

フロローが気になる

 パンフレットの対談によると(*2)

北久保「一番違うのは、やっぱりエスメラルダに対して性的な魅力を感じてしまうところですよ。」
鈴木「暖炉の前で歌うシーンね。あれは明らかに大人向け。子供向けではないですよ。」
永野「あそこはスゴイ! 歌もスゴイんですよ。フロローは『自分の罪じゃない、悪いのはあいつらだ』みたいなことを言っているけれど、バック・コーラスでは『我が過失なり、悪いのは全部私……』と歌っているんです。」

 フロローに惹かれる私としては、実写映画のような悪役なんだよ、とフォローしたくなります。ですが、さらに対談は続きます。

横森「また今回はフロローがイヤな奴に余計に感じるのは、マヌケな悪役の相方がいないせいだと思うんです。例えば『アラジン』のジャファーならイアーゴというヌケた相棒がいた。『ピーターパン』ならフック船長にスミーがいたし。」

 フロローからすれば、カジモドがその役なのかとも思いますが…。

フロローのなぞ

横森「実際、フロローのキャラクター・グッズってあんまり作られていないらしいです。」

 ここまでディスられても、フロローが気になってしまう。
 フロローは、どうしてあんなアプローチをしたのか。とんでもない美人だったから理性を無くした、というのは理解できます。ジプシー女と蔑みつつ、彼は彼女に欲望を感じています。
 フロローも冷静であれば違っていたでしょう、ついいじわるをした。好きな子にちょっかいを出してしまう男子のこじれた版。相当こじらせてます。そう考えれば、同情してしまいませんか。

~男性というものは、自分が努力して獲得したものーー高い地位や豊かな学識、お金や家、車などーーを見せつければ、相手の女性が自分のことを好きになるはずだと思い込みがち~ (*3)

恋の結末

 現実世界の美女は、イケメンを好きになるんですよね。この作品がすごいのは、そこを描いている点です。フロローの愛が報われないのは当然としても、美しい心の持ち主であるカジモドも報われないんです。イケメン隊長と恋に落ちる。
 原作では、イケメンの隊長フィーバスにはフィアンセがいるんです! 浮気男なんですよ。でも男からみても、フィーバスは憎めない、いい奴なんですよね。ちくしょうめ。

 

 

*1;監督ゲイリー・トゥルースデイル&カーク・ワイズ『ノートルダムの鐘』1996、ディズニープラス
*2;パンフレット『ノートルダムの鐘』東宝(株)、1996
*3;鹿島茂ユゴー ノートル=ダム・ド・パリNHK出版、2018