G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

FMシアター『夫婦円満』を分析 (平成12年度文化庁芸術祭参加作品)

 熟年夫婦の離婚危機を描いたラジオドラマ。とんでもない二人のお芝居! (ちょい役で、おかけんた氏もでてますが)
 夫役が八月に亡くなられた笑福亭仁鶴師匠! 妻役は市原悦子!!(市原さんも2019年に亡くなられたんですよね)。本作は手持ちの録音だが、21年前の作品。ご冥福をお祈りしつつ、楽しませていただく。

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あらすじ

 朝風呂、鼻歌まじりに明日の結婚式のスピーチを練習する夫。「タオル~」と風呂からいえば妻は持ってきてくれたのだろう。だが今日は山へでかけてしまう。
 急いで尾行する夫、山で逢い引きしていると疑っている。妻が荷物をおいた誰もいない山小屋で隠れてまつ夫。次第に暗くなってくる。躓いた夫は大怪我!
 真っ暗な山小屋で会話する夫婦。夫の浮気に怒っていた妻。嵐がきてしまい、協力せざるをえなくなる。謝罪する夫、どうして山へ行っていたのか聞かせてくれとたのむ。ブルーバードの巣箱を作っているという。
 なんとか脱出しようとするのだが、運悪く熊が小屋へきてしまう。二人は協力して熊を追い払う。夫は怪我をしていて動けない。妻だけでも遠くへ逃げてほしい。謝罪をする夫に、許したわけではないと言われつつ、妻は助けを呼びにいく。
 結婚式のスピーチは、朝風呂で練習していた内容と少し違っている。
 二人で山へ。嵐で破壊された巣箱を直していると、ブルーバードがやってくる。

キャラクターのベクトル

 妻は夫の浮気に怒っており、夫は部下の結婚式で行うスピーチをなんとか乗り越えたい。要はこれだけ。
 まず妻、浮気に怒り、その怒りを抑えようと長年苦労されたことが伺える。その末にたどり着いたのが山登りをしてブルーバードの巣箱を作ることであり、離婚届をみせることだ。
 夫は何も考えていない。タオル一つとるのも妻に任せて、きっと何もしない亭主なのだろう。さらに彼は妻の話を聞こうともしない。なのに世間からはオシドリ夫婦と呼ばれているらしく、部下の仲人をしたうえに、結婚式のスピーチを頼まれている。そこへ突然の離婚届である。
 夫婦は熟年離婚の危機、二人に山登りをさせることで、無理やり感情をぶつけさせる。

膨らみを感じるのはなぜか

 物語を楽しんでいる間は気づかないが、要は妻が本心を打ち明け、夫が謝罪して解決するだけの話。本当にそんなことで解決するだろうか。夫婦関係に具体的な変化はない。
 もちろん、巣箱がめちゃくちゃだというメタファーはある。だが、実質は浮気を水に流しただけだ。
 妻に言ってあげたい、明日からは一つでも家事を手伝うという約束をさせれば? と。何も変化しないのに、一本の映画を観たような複雑な物語を感じる。これはどうしてだろう?

物語で「人生」を描いたから

 仮説だが「人生の縮図を連想させる」と感動するのではないだろうか。
 『夫婦円満』から縮図を感じるのは、数個の要素が昇華するからだ。一つ一つはシンプルなのに、絡み合って複雑な動きをする。
 例えば「巣箱」というものは、夫婦で作る「家庭」のように感じられる。それに夫のスピーチも今回の山登りにより、内容が変化している。夫が風呂で歌っていた詩さえも、リンクしてくる。
 人生の縮図のような山登りを体験した夫婦は、結婚生活をやり直す、というわけだ。
 さらに、冒頭と結末のモノローグは妻だが、実質上の物語は全て夫のモノローグ。この物語自体も円環構造があり、箱、つまり人生になっている、のではないか。なんちゃって。

 

資料:NHK-FM FMシアター 『夫婦円満』作:元生茂樹 演出:大橋守 出演:市原悦子 笑福亭仁鶴 ほか 平成12年度文化庁芸術祭参加 (自前録音のため、詳細の日付は不明)