G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

「羽州ぼろ鳶組 菩薩花」が最高に燃える理由をさぐる (前編)

 今回は「ぼろ鳶組」を取り上げます! 

※ネタバレ満載ですので、気をつけてください。

あらすじ

 江戸の火消し松永源吾ひきいる新庄藩ぼろ鳶組は、火消し番付上位者が多い。評判などより火消しに集中しようとするがそこは人間、つい気になってしまう。
 だがそれは他の火消したちも同じこと。手柄をあせる仁正寺藩の火消し。さらには定火消の進藤内記は「菩薩」と奉られているが、どうもうさんくさい。
 そんなさなか、番付を決める読売書きの文五郎が行方不明に。文五郎は火消しによる付け火を疑っていた。

全体の構成

 原作小説版と、NHK FM青春アドベンチャー」で放送されたオーディオドラマ版の構成を比較してみます。(*1、*2 文末に参考資料の紹介があります)
 大きくは違わないのですが、視点が異なっている。そのため、原作小説の序章で扱われていた内容が、オーディオドラマ版では第5回(全10回)まで待たなくてはならなかったり…。

 色々あるのですが、つまり、オーディオドラマ版では、主人公たち松永源吾ひきいる新庄藩ぼろ鳶組の視点で展開されます。仁正寺藩は怪しいとさせておいて、記者の文五郎がいなくなってしまう。

 仁正寺藩に事情を聴きにいくと、仁正寺藩を率いる与市も行方不明。ここへきてやっとオーディオドラマ版で原作小説の序章を説明してくれます。
 さらに原作小説第1章の冒頭で扱う内容は、オーディオ版では第2回となっている。
オーディオドラマ版は、ぼろ鳶組の視点に立ってもらい、一緒にミステリーを解いて行こう、ということでしょうか。

燃えるポイントを比較

「生憎、俺は物分りが悪いのさ」
 この台詞を筧利夫さんがおっしゃると、もう痺れるんです。そこでその前後を原作小説とオーディオドラマで比較してみます。

・小説版 p141(*1)

「流石蝗の秋仁。大軍の将は引きどころを弁えておる。さて……ぼろ鳶組の皆様方はどうなさる?」
 内記は歯も見せずに口角を上げる。
「生憎、俺は物分りが悪いのさ」
「見られよ。当家だけでかたがつきそうですぞ」
 後ろを振り返りつつ内記が言った。確かに先ほどよりも火勢が削がれ、棟を壊して的確に火除け地も作られている。

・オーディオドラマ版 4回(*2)

内記「流石蝗の秋仁。大軍の将は引きどころを弁えておる。さて……ぼろ鳶組の皆様方はどうなさる?」
源吾「生憎、俺は物分りが悪いのさ」
 音楽盛り上がって、間
「おっ母! おっ母!」

 そしてナレーションがつづく。オーディオドラマ版は、区切っているんですね。原作小説版でも盛り上がるシーンですが、そのまま流れていく。でも、オーディオ版は、音楽を使って決めポーズがあるんです。

 

カッコいい締め方
 まずは、オーディオドラマ版のカッコいい締め方。

・オーディオドラマ版 6回(*2)

深雪「いかのぼり」
竹蔵「え? いかって、なんですかいそりゃ?」
ナレーション:黙っていた福助が満面の笑みを浮かべた
福助大名行列のあれだよ」
源吾「そうか、その手があったか。でかしたぞ深雪、一本取られたよ」
終わりの音楽

 なんのことだろう、また明日の夜が楽しみだな、となります。ですが、小説では途中なんです。

・小説版 p240(*1)

「烏賊のぼり」
 深雪が口元を綻ばせる。
「なるほど! その手があったか!」
 源吾は思わず叫んでしまった。竹蔵も一本取られたと月代を叩く。新之助は解らぬようで、教えてくださいと肩を揺らした。
「烏賊のぼり、すなわち凧さ」
 今では凧と呼ばれる正月の風物詩は、元来は「烏賊のぼり」と謂った。昔は武士の遊びであったというが、江戸開府以来、町人の子どもたちに瞬く間に広まった。

 と、「凧揚げ」ウンチクを使ったトリックの説明が続く。オーディオドラマ版ではそれをクイズのようにして、日をまたぐわけですね。

 というわけで、わたしもつづきは週をまたぎたいと思います。ではまた。

 

【参考資料】
*1:今村翔吾『菩薩花 羽州ぼろ鳶組⑤』祥伝社文庫、平成30
*2:〈https://www.nhk.or.jp/audio/html_se/se2021016.htmlNHKオーディオドラマホームページ「菩薩花 羽州ぼろ鳶組」