G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

続・シナリオを変えてはいけない? 『ラヂオの時間』から学ぶシナリオ術!

 前回の冒頭、シナリオライターは「筋を変えられることに、異常にこだわる」という偏見があるが、実際は違うと指摘した。様々なシナリオライターさんへのインタビューを読むと、「変えてもらっていいんですよ」と答えていることがある。作品がよくなるならそれでいいんです、と。
 だが、『ラヂオの時間』でこだわりを見せた三谷幸喜氏はどうなのだろう。本音が気になり、調べてみた。

 

三谷幸喜氏の本音?!

 『三谷幸喜 創作を語る』は対談形式でこれまでの創作の裏側を語る本だ。ここで「ラヂオの時間」も取り上げている。三谷氏は「作家志望の主婦」は自己投影したキャラだと述べている。

~脚本がいろいろ変更させられて怒るっていうのは僕自身のことで、~

(*3、p.108)

 もちろん三谷氏は、あそこまでの事件は起こしておられない(と信じたい)。だが、近い事件はあったようで、自分の名前を消してほしいと叫んだことはあったようだ。

 さらに、内容を変更された過去に、怒りさえも覚えておられる。具体的に引用してみる。

仮に一時間ドラマのために書いたものは僕の考えるテンポでやれば確実に収まるのに演出家が読むと、「異常にページ数が多いからカットしてくれ」と。
「僕はカットしたくない、全部が大事なシーンの台詞だから。これが収まる速いテンポで撮ってください」とお願いするけど、~

(*3、p.111)
 本書ではこうある。でも信じていいのだろうか。相手はあの三谷監督だ。

変更こそ笑い?!『笑の大学

 もう一つ物語を紹介したい。シナリオをいじられる三谷幸喜作といえばこれ『笑の大学』だ。
 物語は戦中の日本。喜劇作家が検閲官にダメ出しをくらう話。何度も書き直しを要求されてしまう。だがその度に、より面白くなってゆく。次第に二人は完成度の高いコメディを書き上げてしまうのだが・・・、という物語。
 私はラジオドラマ 版でしか知らないが、密室で良い物を作り上げていく感じは、『ラヂオの時間』に共通する感動を味わえる。
 三谷氏は、こういう形を望んでいるのだろうか。だが、あの傑物三谷幸喜だ。冗談と真実の区別がつきにくい。

三谷幸喜とはどんな人物か

なぜ僕はミニチュアが好きなのか、精神科医香山リカさんに尋ねたら、「俯瞰でものを見たい性格なんじゃないか」と。

(*3、p.208)
 三谷幸喜氏は軽めの否定をされるが、誰もが監督の才能を認めないわけにはいかない実績がある。もちろん脚本家としても日本を代表する方だが、本来は監督として思考される方なのではないか。
 さらに、ご自分の個性も理解した上で魅せてくる。冒頭の長回しのシーンも、台本を読めば長いと感じてしまうかもしれない、という指摘に、

僕は舞台からきているので、自分が一番考えやすくやりやすい手法が、長回しなんです。「この場面をワンカットで撮るにはどう俳優さんを動かせばいいか、どうカメラを動かせばいいか」を考えるのが楽しいし、向いてる気がした。「どうカットを割るか」は僕よりうまい人が山ほどいる。そこで勝負はせず、自分が得意な方法で映画を撮りたいと思い、僕にはそれが長回しだった。

(*3、p.119)

 柔軟に対応するスキルが高い方なのは間違いない。

ユニークな三谷印

 『ラヂオの時間』のパンフレットには、鈴木みやこ氏の脚本「運命の女」全文が掲載されている。(映画本編のシナリオを掲載したパンフレットはあるが、劇中劇の芝居全文を文字に起こして掲載するなんて!)
 一読してみれば、変更された箇所がわかる。元の作品は、巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレン主演の『ひまわり』に似ていなくもない、ような全然違うような、似てるような作品だ。
 面白いのは、あの台詞は、鈴木みやこさんの創作だった点だ。

虎蔵「これから、僕らの新しい人生が始まる」
リツ子「そうね、これは終わりじゃないのね」
虎蔵「そうとも、これは終わりじゃない。終わりの始まりでもない。始まりの終わりなのさ」

(*2)

 この台詞は映画の冒頭とクライマックスに使われている(*1)。この台詞一つで、「三谷幸喜作品だなあ」と感じる、素晴らしい三谷印だ。(クライマックスでは虎蔵の台詞が3回もリフレインする)

結局シナリオは変更していいのか

 たしか「問題はどこで折り合いをつけるかだ!」みたいなことを『みんなのいえ』でシナリオライター役(飯島直介)のココリコ田中さんが言っていた(と思う)。

 こんな記述もある。

僕は自分が楽しいと思うことをやってるだけで、言葉は本当に悪いけど、遊びの延長なんですよ。

(*3、p.230)

 前後を読んでみても、謙遜とは思えない物言い。そこがまたあの御方の面白いところだ。

 


【参考資料】
*1;脚本と監督 三谷幸喜ラヂオの時間』1997、出演 唐沢寿明, 鈴木京香, 西村雅彦、アマゾンプライムビデオ
*2;パンフレット『ラヂオの時間東宝(株)出版・商品事業室、1997
*3;三谷幸喜松野大介三谷幸喜 創作を語る』講談社、2013