G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

映画『K-PAX 光の旅人』から宇宙人らしさを学ぶ

 突然ですが問題です。「宇宙人とコンタクトする映画を低予算で撮るとしたら、なにを写せば良いでしょうか?」(なんじゃこの設問?!)
 宇宙船の模型? 臨時ニュースを作る? いえいえ、そんなのお金がかかりすぎます。答えは、バナナを皮ごと美味そうに食べればいいのです。ん? そんな皮ごとバナナな映画『K-PAX 光の旅人』をご紹介します(すいません、本当は心温まる名作映画です)。

 ※以下、ネタバレがあります

あらすじ

 自分を異星人だというプロート(ケビン・スペイシー)は、精神科医マーク(ジェフ・ブリッジス)の診察を受けている。
 プロートは診察室にあったバナナを皮ごと美味そうに食べて、「これだけでも来たかいがあったよ」と満足げだ。彼は自分の星K-PAXについても詳細に語る。マークは天文学者の友人に質問してもらうが、発表前の新事実を言い当ててしまう。
 病院内の他の患者さんに話しかけ、治る手助けをするプロート。星に戻るときには、一人連れていけるという。
 マークのホームパーティーに、プロートは招待される。楽しいパーティだったのだが、子どもの水浴びに取り乱してしまう。水を止めると正気を取り戻す。マークは何か水に関係する事件があったのかと疑いだす。だが、突然プロートはいなくなってしまう。
 3日後、病院内の木の上で発見されるプロート。ついに催眠療法をうける。少しずつ明らかになってゆく彼の過去。それは凄惨な事件だった。
 プロートがいつも使っている鉛筆から場所を特定し、事件を突き止めるマーク。診察室でマークはプロートにいう「君はプロートではない、ロバート・ポーターだ!」と。プロートは少し微笑んで、あいつのことを宜しく、と頼んで行ってしまう。
 K-PAX星に帰ると約束した日を境に、プロートは全く反応をしなくなってしまう。献身的に話しかけるマーク。病院内からは一人の患者が忽然と姿を消していた。(*1)

名作だけど消化不良?

 映画の感想を語りあうサイト「Filmarks」をみると、好意的な意見が多い。中には

「心が荒んでいる時に観るのがおすすめ。見終わった後は、雨上がりのような気持ちにさせてくれる。」(6151@besidecoffeeさん)

という素敵なご感想も。
 ですが、果たしてプロートは宇宙人だったのか? 最後まで曖昧なままで、不快ではないが、モヤモヤが残るという感想も。
 この映画の焦点は「プロートは宇宙人か」なのですが、曖昧なままで終わってしまう。私としては、そもそもこの宇宙人には実体がなく、乗り移ったのかと思いましたが…。明らかにされていません。

原作の翻訳を担当された風間賢二氏はいう

「ストーリー展開は原作にきわめて忠実だ。ぼくのような映画にシロウトの輩は、本編のように原作がある作品を鑑賞するさい、単純な評価基準をもうけてしまう。すなわち、原作どおりであるかどうかだ。その点、『光の旅人』は満点。」(*2)

 そして、プロートが宇宙人か否かにはこう書かれている。

「ちなみに、原作『K-PAX』には続編があって、プロートの正体があかされている。はたしてかれは単なる狂人だったのか、それとも本当に宇宙人だったのか?」(*2)

 上記はパンフレットに掲載された最後の部分。オシャレに、はぐらかして終わらせてます。

映画は内面が描けていない?

 「Filmarks」では、マイナス意見もありました。それを総括しますと、ファンタジーなヒューマンドラマとしては中途半端だというのです。もっと人間関係の内面を描いてほしかったのでしょうね。
 人間の内面に迫ってほしい、であれば、オーディオドラマの得意とするところ。ヒューマンドラマ×SFのオーディオドラマはしばらく放送されていないのでは? 聴きたいです。
 ただ、内面を描くには疑問も残ります。
 プロートがK-PAX星人だとした場合。告白して助けを求めればよかったのでは? 
 さらに、これを言ってはお終いかもしれませんが、例の凄惨な事件。たしかにひどい事件だけれども、あんな事件は世界では毎日のようにあるのでは? どうしてプロートはあの事件に注目したのでしょうか?

続編が5作もある!?

 翻訳をした風間氏も、じつは原作小説には続きがあると言われていました。Amazonで検索してみると、第5部までありそうです。映画化されたのは第1部だけ。翻訳されているのも第1部だけです。ああ、英語力。
 

 蛇足ながら、冒頭に皮ごとバナナの話をしましたが、本当に皮ごと食べられるものがあるそうですね。皮ごと食べることが当たり前になってしまえば、意味がありません。映画の中では、イチゴをガクごと食べたました。あと、なにを食べれば宇宙人っぽいんでしょうね。

 

 

【参考資料】
*1;DVD『光の旅人』日本ヘラルド、2002
*2;パンフレット『光の旅人 K-PAX』東宝(株)出版・商品事業室、2002