漱石のオーディオドラマ?!『変な音』
洗濯物を干す時は「夏目漱石」がいい
メカ音痴なんですが、スマホがあれば無料で本が読める時代なんですね。それにサブスクっていうんですか、有料で楽しむビデオ屋みたいなのもネット上に複数あるみたいだし。あれ、有料だけじゃないんですよね、無料でTVドラマや映画もあって(広告を見なきゃいけないみたいですけど)。
でも、「時間がない」ですよね。本を読むのは面倒だし、映画も2時間近く拘束されちゃうし。何かしながら楽しみたいけど、家事や通勤中の読書や映画って、どこか身が入らず、筋を追うだけになりません?
そんな時は、朗読がおすすめっす。「ろうどく」って地味な感じがします? いやいや、たしかに派手さは無いんですが、面白いっすよ。正確には、つまんないものも複数あるんですけど、ドラマ並? いやそれ以上の体験をさせてくれるのもあります。
今回は、洗濯物を干しながら聞いていたら、気づけば全部干し終わってる作品をご紹介します。
もちろん案件じゃないっす
ご紹介したいのは「青空朗読」です。断る必要もないとは思うんですが、勝手におすすめさせてもらってます。
スマホがあれば、無料で朗読してくれるアプリがあるんです。無駄な広告もありません。妙な会員登録も必要なく、すぐに楽しむことができます。忖度なしに、使った感想を率直に書かせてもらいます。
「青空朗読」めっちゃいいっす。
本来であれば、Amazonの朗読サービス(Audible)やオトバンク、キクボンなどが有名ですが、基本的には有料のサービスなんですよね。しかも1作品単位で楽しむなら、本を買うより割高です(月額サービスもありますけど…)。まあ、読んでもらうんだから当然なんですが。勝手なイメージとして、そうでない作品もいっぱいあるんですが、オジサマや一部のファンに向けた作品が目立つ気がするんです。
青空朗読の場合は、文豪の知られざる短編作品が豊富なんですよね。
「青空朗読」大丈夫なの?
このアプリ、広告収入もないのに、誰がやってるんだろうと調べてみると…。「青空朗読」は「青空文庫」にある著作権が切れた作品を、ボランティアさんの朗読で楽しむサービスなんですって。
ボランティア? 朗読を聞いた感想ですが、素人が読んでおられるようには聞こえません。私、自分でいうのもなんですが「朗読好き」でしてCDはもちろん公演などにも行きます。1日に1時間は聞いていると思います。
そんな私からして、青空朗読さんは今のところ、上質です。検索してぼんやり掴んだ情報なんですが、朗読はアナウンサーさんによる社会貢献として始まったらしいんです。だからでしょうか。とにかく、今のところ青空朗読さんの質に問題はありません。
もちろん、システムエラーみたいな不具合も今のところ一度もありません。あと、YouTubeにも「変な音」の朗読と解説をしておられる番組があります。こちらの朗読はまあアレですが、キレイな映像があります。解説も丁寧で素晴らしいです。
怪談?ミステリー?夏目漱石の『変な音』を朗読&解説します!【夏目漱石への道#3】 - YouTube
漱石『変な音』のあらすじ
この話、ご存知ですか? わたしはタイトルも知りませんでした。上下に別れたエッセイみたいな短編小説です。
上
病室で変な音をきいた。頭から離れない、大根かなにかを摺りおろす音だ。聞こえてくる隣室はふすま一枚しか隔てていない。何の音かと尋ねるほどではない。その音はその後も繰り返された。
回診を待っていると、隣室で医師の声がする。急には治らないと説明されている。二三日後、その病室に出入りの音がした、私も退院した。
下
三ヶ月後、再入院した。例の部屋も気になるところだが、病状の変化に体がいそがしい。病気で死んでゆく者、苦しむ者。自分は快方にむかった。散歩できるまでになった。スタッフとも親しくなる。この前の音について聞こうとすると「あなたの御室で変な音がしましたが?」と尋ねられた。たしかに髭剃りを研ぐ音をさせていた。
こちらからも聞いてみる。あの音はなんだったんだと。あれは患部を冷やすため胡瓜を擦っていたとわかる。あの人はもう亡くなっていた。胡瓜の音とカミソリの音、その違いを心の中で思い比べる。
作品に出てくる音だけを抜き出してみる
『変な音』というタイトルだけあって、妙な音のオンパレードです。
まずはこれから
隣の室で妙な音がする
よくよく聞いてみると
山葵おろしで大根かなにかをごそごそ擦っているに違いない
なんじゃそりゃ。大根おろしで大根をすってるんじゃないんですよ。わさびおろしで大根ですよ。漱石っぽいですね。
病人は静かな男であったが、折々夜半に看護婦を小さい声で起こしていた。
小さい音も気になるんですよね。
看護婦がまた殊勝な女で小さい声で一度か二度呼ばれると快よい優しい「はい」と云う受け答えをして~
ここまで音がしていたのですが、
終日かたりと云う音もしない。空いていたのである。
しーん、とします。病室の白く長い壁を連想してしまいます。
そしてまた誰かが苦しむ音が
夜半に眼を覚ますと、時々東のはずれで、付添のものが氷を砕く音がした。その音がやむと同時に病人は死んだ。
あらま。
あの病人は嘔気(はきけ)があって、向うの端からこっちの果まで響くような声を出して始終げえげえ吐いていたが、この二三日それがぴたりと聞こえなくなった~
元気になった主人公が散歩して仲良くなった看護師さんから言われちゃいます
「あの頃あなたの御室で時々変な音が致しましたが……」
「自働革砥(オートストロップ)の音だ」
電動ひげそりがない時代なので、カミソリを研ぐわけですね。
そしてついに
「そりゃ好いが御前の方の音は何だい」
「御前の方の音って?」
山葵おろしで大根をする例の音の正体を尋ねます。
「ええあれですか。あれは胡瓜を擦ったんです。患者さんが足が熱って仕方がない、胡瓜の汁で冷やしてくれとおっしゃるもんですから~」
胡瓜をする音とカミソリを研ぐ音。死と生を暗示する対比に民藝的な美しささえ感じられる作品です。
【参考資料】
青空文庫「変な音」夏目漱石;https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/763_43525.html
青空朗読「変な音」夏目漱石;https://aozoraroudoku.jp/voice/rdp/rd374.html