G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

スコセッシ監督『ディパーテッド』の面白さに迫る(前編)

 先に相手を見つけないと自分の命がない! ってだけのリメイク作品なのに、どうしてこんなに面白いの??

※参考資料は文末

あらすじ
 ボストンに二人の男の子がいた。一人は一族に犯罪者ばかり、決別しようと警察官になったビリー。もう一人はギャングのボスであるコステロに、内通者となるよう育てられたコリン。同じ警察学校から二人は巣立っていく。ビリーは潜入捜査官としてギャングの道へ。コリンは有能な警官を装いギャングのスパイに。
 警官になったコリンは仕事もプライベートも順調でイケイケ。いいマンションに引っ越し、ナンパした精神科の女医と同棲まではじめている。一方、ギャングのビリーは毎日が危険と隣合わせ。限界に達した彼は精神安定剤を求めて精神科の女医にかかる。恋に落ちてしまうが、相手は同じ女性だった。
 ギャングと警察双方で本格的にスパイ探しがはじまる。だが警察は事もあろうに内通者本人のコリンにその仕事を任せてしまう。だが、そこで妙な噂が流れてくる。ギャングのボスがFBIに情報を流している疑いがでたのだ。
 いよいよギャングに身元がバレそうなビリー。頼りにしていた上司が殺される。独りでいるビリーの部屋、携帯が鳴りだした。死んだ上司の番号からだ。相手はコリン、引き継いだ者だと名乗る。だが、ビリ―はコリンのほころびをみつけ、対決する。(*1、2)


どうしてリメイクするの?
 本作はリメイクだ。ハリウッドには優秀なシナリオライターが大勢いる(はず)。新作を書くプロが揃っているのに、どうしてリメイク(なんか)するのでしょう?
マイナス思考の私は、リメイクの欠点からあげてみることとする。まず、高い期待をされてしまうじゃないか。そもそも元ネタが超絶に面白いから企画に上がるわけだから。当然リメイク版のハードルは上がってしまうだろう。
 映画界全体の問題だけど、お金の話もだ。映画を作るには莫大な予算がかかる。名作が望まれるのは無論、高い興行収入も求められる。そのためには、賞も欲しいところだろう。
 賞は制作側が望んだとしても簡単に手に入るものではない。強めに望んだとして「え、これがアカデミー賞?」と疑われない作品に仕上げないといけない。そううまくはいかんだろう。
 結果からすれば『ディパーテッド』はアカデミー賞の5部門にノミネートされ、作品、監督、脚色、編集賞を受賞。リメイクでこれらを成し遂げるのはハードルが高い。だって外国映画のリメイクがアカデミー賞をとったのは史上初なんだもの!!
 部外者からすれば、新しくやった方がいいんじゃねってなもんだが、リメイクはなくならない。


リメイク? オマージュ? リブート?
 そもそも『ディパーテッド』はリメイクっていっていいのか問題をとりあげる。世間ではリメイクだ、オマージュだ、なんだと横文字でいいますよね。定義とやらを私なりにまとめてみました。 
・リメイク:「作り直す」ってこと。基本設定や筋はそのままに撮り直す。
・オマージュ:「尊敬して制作する」ってこと。元の作品に敬意をもって再現する。
・リブート:「再出発」ってこと。コンセプトを変更して別物として制作される。
 他にもスピンオフ(派生作品)なんて言葉もあるし、プリクエル(前日譚)も流行りましたよね。
 『ディパーテッド』のパンフレットではシナリオライターウィリアム・モナハンが以下のように語ってます。

「当時はまだ『インファナル・アフェア』を観ていませんでしたが、観ないままの状態で脚色したかったんです。ですから、参考にしたのは中国語で書かれた脚本の英語訳だけ。そこにはみごとなストーリーが展開していて、登場人物を増やす余地も十分にあると思いました。」(*2)

 本作は、元ネタを尊重しつつ、間違いなくスコセッシ監督作品に仕上げてます。リメイクというか、オマージュといっていい(リメイクだけど)。
 ちなみにスコセッシ監督は「僕は香港映画の大ファンで、『インファナル・アフェア』は特に好きな作品。でも『ディパーテッド』はそのリメイクというわけじゃないんだ」(*2)と語っている。どっちなんだ。

「筋立てとしては『インファナル・アフェア』に着想を得ているけど、ウィリアム・モナハンが描いた世界は『インファナル・アフェア』とは別物。~」(*2)

 まあ、でもリメイクというらしいです。

 

 つづく

 

【参考資料】
*1:マーティン・スコセッシ監督『ディパーテッドレオナルド・ディカプリオマット・デイモンジャック・ニコルソン、2006製作、初回限定スペシャルディスク付DVD
*2:パンフレット『ディパーテッド』発行:松竹株式会社、2007年1月19日発行
*3:特定の映画が何度も何度もリメイクされる理由を科学的に分析 - GIGAZINE
https://gigazine.net/news/20160704-why-remake-movies-again/
2016年07月04日