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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

ドラマ『先生のおとりよせ』は中身がないから面白い?! 第6話「女系家族襲来」より

 最強の食事ってなんだろう。「人生の最後に食べたいもの」というべきか。卵かけご飯や寿司、カレーも強いが、うどんもランキング入りするらしい。意外というべきか、半年に一度は食べるものがでてくる。松茸やキャビアにトリュフではないのだ。
 最期を目前にすると、普段口にするものが食べたいのだろうか。だが、そんな時代はもう終わった。このドラマを見ればわかる。お取り寄せがあるからだ。人生の最後に食べたいものの幅を持たせるためにも、ぜひご一読をば。

※ネタバレがあります
※参考資料は文末

あらすじ
 楽しく電話をしていた中田みるく先生、「え!」と驚きダンボールを持ってお隣のチチクラこと榎村遙華先生宅へ。「何も言わずに預かってほしい」と頼む。マンガ道具一式だ。祖母との約束で漫画家になったことは秘密にしているという。そこまで聞いても断る榎村だった。
 と、そこへ大家さん。大家さんの後ろには中田の母と従姉妹たち。一緒にお茶でもと誘われてしまう榎村。断ると思いきや「ご一緒しましょう」と快諾するのだった。
 家族にバレたくない中田に、中田の家族と話すだけでご機嫌の榎村。彼の視線は彼女たちの胸に釘付けだ。母は部屋に散乱する封筒から、出版社勤務と推測する。勝手に同意する榎村。上司に挨拶して帰ろうとする彼女らを必死に説得するのだが、運悪く編集長が来てしまう。
 母の言いつけによりスーツに七三分けした中田。親が後ろに控えているため漫画家ではなく榎村の担当編集者の演技をして、編集長に怒られてしまう。
 編集長が帰ってからも、部屋に落ちていた中田ミルクのデビュー作を見られてしまう。かばう榎村。だが、わかっていたという母。ふたりは付き合っているのよね、と。みんな驚きつつ、嘘がバレないよう耐えるオッサンふたり。そこへお取り寄せがくる。みんなで食べる。
 食後、温かい家族に囲まれ、黙ってていいのかと榎村が心配する。打ち明けようとする中田だったが、母たちは帰ってしまう。言い出せなかったもどかしさを抱え、落ち込む中田。だが帰り際、榎村に「俺はあなたのマンガが好きだ」と言われる。中田先生は慌てて稀少本をあげようとするのだった。(*1)


ASMRとしての面白さ
 どんなドラマ? と聞かれれば、「孤独のグルメ」と「きのう何食べた?」を足して割ったようなと説明すればいいのだろうか。だが、それらの作品と比べてグッとくるのは、音だ。
 ASMRというのだろうか、食べるときの臨場感がすごい。とくにこの回は麺類だけあって、モッチモチのドゥルンドゥルンいってくる。
 しかもこのドラマに出てくる食べ物は実際にお取り寄せできるらしい。きっとご存知のものも出てくるだろう。でも、食べ方がちょっとひねってあるんだよなあ。


ドラマと原作の違い
 この回は、order.5「細く長くのご縁で麺」(*2)をもとにしていると思われる。というのは、全体が微妙に違うのだ。中田先生が荷物を預かってほしいと頼むくだり。大家さんが案内してくる中田家ご一行様のシーンがなく、勝手にはいってくる。榎村先生の「ご一緒しましょう」もない。
 さらに大きな違いは、中田先生の祖母、母、イトコのお二人、計四名で来ている点だ。しかも、いきなり温麺のお取り寄せを見つけてしまう。「いーものあるじゃない?」と。息子がなにをしているか、など興味なさそうだ。そもそもおばあちゃんもいるし。
 当然ながら、編集長が来るくだりはない。母の推測、ふたりは付き合っているのよね、もない。榎村が自宅に戻る廊下で中田に「自分が漫画家なの隠しているのか?」と尋ねる。ドラマではド頭に出されていたはずだ。
 榎村と中田が部屋に帰ると、すでに料理が準備されており、女性だけで食ってしまう。みんなで食わないのだ。お取り寄せの説明をするために手にすると「かえしてー」と笑顔で言われてしまっている。男ふたりは、その光景をみながら、「俺は、君の漫画が好きだ」というシーンがでてくる。稀少本は最後のコマの落ちとして、榎村宅から戻ったダン箱から抜かれていたと説明がある。

 

ざっくり分析

 ドラマ版の全体を総括して、構成をざっくり分析してみる。問題が起きて、二人が仲良くもめて、ピンチになって、おとりよせして、乗り越えるって展開。いつもこれ。
 書籍では、小説と漫画が交差してドラマと似た場面もあるが、微妙にちがってばかりいる。
 だからだろうか。書籍の方はどこから読んでも楽しいが、癒やされはしない。やや深刻に捉えてしまう。ドラマはどの回を観てもいつまでも楽しめる。ワンパターンで内容がないから、クセになるのだ。
 内容が無いというのはどういうことか。深い話をしようとはしているんだが、ネタのようにアッサリ切り上げている。深刻にならない。実はここが面白さの秘密ではないか。

 ワンパターンのストーリーがあって、キャラがたっているからハマる人はドはまり間違いなし。つまり、どんなドラマと聞かれれば、「孤独のグルメ」と「きのう何食べた?」を足して割ったようだけれど、実際は「美味しんぼ」だよといえばいいのだ。

 


【参考資料】
*1;テレビ東京オンデマンド『先生のおとりよせ』監督 守屋健太郎, 本間利幸, 保坂克己、出演 向井理, 北村有起哉, 橋本マナミ、2022
*2;中村明日美子榎田ユウリ『先生のおとりよせ』リブレ出版、2014