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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

アマプラ会員なら無料で楽しめる映画『ブラック・シー』の見方 前編

 「決定打のない映画」なんて嫌味や、「面白くなりそうなのに生かしきれてない尻すぼみ脚本」なんてそしりを受けている本作。えー、アマゾンプライム会員なら無料で視聴できるのに、もったいないっすよー。こんな見方をすれば最高に楽しいのに、粗末にしなさんな、という個人的な視点をご紹介します。

概要とストーリー
アマゾンのキャッチコピーは
 「闇に葬られたナチスの財宝に、挑め-。ジュード・ロウ主演 アカデミー賞受賞監督で贈る、極上のサスペンススリラー!」ひょー、カッコいい。
物語は
 冒頭、会社をクビになる主人公のロビン。彼は潜水艦の艦長だ。親友からバーで儲け話をきく。Uボートに積まれたナチスの金塊があるという。資金を調達し、メンバーを集め、潜水艦を借りる。ただ操船の事情などからイギリス人とロシア人のミックス状態となってしまう。
 アパートに戻るとバーで話してくれた親友が自殺したという。伝えに来てくれた若者をメンバーに加えて出港する。
 艦内ではすでにイギリス人とロシア人の小競り合いが始まっていた。艦長のロビンは語って聞かせる。金塊が見つかれば、均等に配分する。だが、資金を融資した会社から派遣された監視役から警告される。「頭数が減れば取り分が増える」ことに気づいたらどうする? と。
 いがみ合う乗組員に、いびられる新人。そこへロシアの軍艦が近づいてきた。大事には至らなかったものの、ミスをしたことでもめる。ついに潜水夫のフレイザーがキレてロシア人を刺殺してしまう。機関庫も大爆発。なんと、沈んでいってしまう。
 船首と船尾に分かれて一触即発状態へ。ロビンは話し合いをする。人殺しも、金塊を持って帰るにはどうしても協力が必要だ。ついに金塊を発見する。
 船内に金塊が運び込まれる。ただ、監視役から妙な告白をうける。資金を出した人間などいないというのだ。すべてロビンをクビにした会社が仕組んだことだったのだ。
 潜水艦を修理して、賭けにでようとするロビン。融資してくれた額を返すこともない。すべての金を全員で山分けする。そのためだけに危険な航路を選択する。海上にはロシアの軍艦がいる。老朽化が進む潜水艦でどこまでいけるか!
 とこんな話。


批判もわかる
 「モヤッとする」人の気持ちもわかります。冒頭の親友から儲け話を聞いて一緒に行くことになるのに、出向前に自殺してしまうんですもの。テンション下がりますよね。メンバー全員を軽く写していくんですけど、神経衰弱ゲームが得意でないと無理です。
 後半で謎解きされるんですが、病気を苦に自殺したのか、自責の念でなのか、両方なのかもしれませんが、つまり、うまく回収されていないんです。
 さらに、ストーリーに使われるメタファーが二重になっていて、キャラより重視されちゃってるんです。でも、ここが好きってなったら、楽しめると思うんですよねー。


二重のメタファー
 この物語は、潜水艦の中だけで世界の縮図を見せようとしている(という説です)。船長は男気で決断したようで実は操られてしまっている。何に? それは金塊、その先を考えると、社会の構造ということでしょうか。

 ブラックシーとは、資本主義のことでは!? 

ミクロの視点からいきますと
 家族はバラバラになり、仕事もなくなり、人生を巻き返そうとする主人公のロビン。この設定なんです。今や誰もがこの状況になりうる経済状況ですから、現代人を表現してます。
マクロの視点は
 6人のイギリス人に5人のロシア人、いがみ合う2国の即席合同チーム。目的は同じく金塊。現実として、どの国も儲けようとしてますよね(例外もありますが)。力を合わせれば達成できるのに、もめてしまう。これもまさしく現代を象徴する戦争の根本的な部分。「利益がでるまでは生かしておいてやる」的な見識で動いてしまうんです。で、トラブルが絶えない。
 物語として問題なのは、テーマがキャラより大事にされてしまっているので、没入できない点です。

 

つづく

 

【参考資料】
ケヴィン・マクドナルド監督『ブラック・シー』出演ジュード・ロウ, スクート・マクネイリー, ベン・メンデルソーン 1時間54分 2015 ©2014 Focus Features LLC. All Rights Reserved. Prime Videoより