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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

アマプラ会員なら無料で楽しめる映画『ブラック・シー』の見方 後編

 『ブラック・シー』を「つまんねっ」っていう人がいますが、社会の縮図だと思えば面白くないっすか、という話を前編でいたしました。
 ここからは、ネタバレありです。ご注意ください。

 映画の後半、謎が残ってしまいます。主人公が別人になってしまうのはなぜか。写真だけ届けようとしたのはなぜか…迫っていきます。

(*詳細は一番下を参照)


今、見るべき映画
 『ブラック・シー』は、2014年制作の映画です。昨今のウクライナ情勢の前に作られました。現実問題として、報道されている範囲ですが、イギリスとロシアの仲は最悪ですよね。戦争の泥沼から、なんとか落とし所を探そうとする諸国に対して、この2国は強烈に反目しあっているようにみえます。
 映画のなかでも「奴らと同じ取り分なんて納得いかねえ」とフレイザーがいいます。昨今の現状を鑑みると迫ってくるセリフです。
 そこへ、均等に、平等に分けようとする主人公。ロシアとイギリス、ウクライナ。どうして揉めちゃうんだろう、という方は是非、空想してみてください。
 国は疲弊しています。失業率も高止まり。国民の不満は爆発寸前、そこへ、隣国に金のなる木があるなら? リスクはあるが利益が見えている。事情を知る諸国と協力すれば成功する可能性は高くなるかもしれない。でも、独り占めすれば、利益はもっと大きくなる、とすれば? 邪魔者を排除してでも、取りに行きます? あっちは排除する気ですよ?
 主人公は始めから「みんなで山分け」を主張しています。協力すれば成功率はあがります。正しいことのように見えるのですが、揉めてしまいます。現実も戦争になってしまいました。


主人公が襲われたもの
 ラスト、息子の写真を金塊に忍ばせ海上へ送ります。なぜあんな行動をとったのでしょうか。主人公が無責任だからでしょうか。沈没して死ぬとなれば、家族の写真をみながらでもいいはずなのに、そうしませんでした。
 あの写真と金塊が海上の青年に届くと、どうなったでしょう? きっと彼は主人公の妻と子を探してくれるでしょう。金塊を少しは分けてくれるかもしれない。そして元妻に、この写真を最後まで大事にしていたと伝えるでしょう。
 その想いを遺したかったのではないでしょうか。家族には金よりも、想いを届けようとしたんじゃないだろうか。
 もう一つ、主人公も自覚していない裏の意味もありそうです。鑑賞している人にだけ届けたい監督の想い。主人公は、ラスト艦内での死を覚悟します。悪の正体である金塊を前にして、自分の欲に向き合いながらタバコを吸います。富のしがらみや、社会構造から抜け出せなかった自分。子どもの写真をここに置いておきたくない、我が身から離そうとしたのではないでしょうか? 自由になってくれと、願ったのでは??


オーディオドラマ化は不可能?
 音だけで、映像はないドラマ=オーディオドラマ。潜水艦ものならやりやすそうですが、実は難しい(と思います)。
 NHK-FM青春アドベンチャーでは、かつて『スフィア』(原作マイクル・クライトン)を放送したことがあります。海の中で繰り広げられるスペクタクルです。あれは間違いなく、大成功でした。ですが、あれはいわゆる「潜水艦もの」というわけではない気がします(いわゆる潜水艦ものっていうのは、『クリムゾン・タイド』みたいな、魚雷を撃ったり、浸水が止まらなかったり、海嶺を抜けたり…?!)。

irie-gen.hatenablog.com 人間の内部にあるものの恐ろしさにフォーカスされていました。今回は、閉鎖空間での人間ドラマ…のように見せかけた国家間のメタファー。金塊を探しにいく話であり、海上のロシア軍から逃げつつ、内部で抗争をする物語です。
 映画を吹き替え音声にして音だけで聞いてみますと…、正直、出だしでよくわからなくなりました。もしかしたら、登場人物の出し方に問題があるのかもしれません。映像があっても混乱しちゃいます(わたしの記憶力に問題が!?)。

 ですが、ここだけクリアすれば、音だけでも楽しめた気がします。

 

 

【参考資料】
ケヴィン・マクドナルド監督『ブラック・シー』出演ジュード・ロウ, スクート・マクネイリー, ベン・メンデルソーン 1時間54分 2015 ©2014 Focus Features LLC. All Rights Reserved. Prime Videoより