G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

沼ハマった海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の構造

「あるとき俺は娼館にロバとハチの巣を持ち込んだ」
 登場人物の一人、ティリオン・ラニスターが全シーズンを通して3回もいうセリフだ。いずれも、「~ハチの巣を持ち込んだ」まででその後の内容は明かされない。
 毎回思う、どうなったんだろう、と。気になって仕方ない。娼館にロバがいたら、なんだか笑ってしまうかもしれない。そこへ、ハチの巣だ。緊張するだろう。緊張と弛緩の材料をもって、娼館へいくわけだから、きっと大笑いできるイベントなんだろう。
 娼館の話をしたいわけではなく、「~ハチの巣を持ち込んだ」で切るのが『ゲーム・オブ・スローンズ』流だと根拠を示して主張してみたい。

予測不可能?!
 第三章の第九話では顎の関節が外れたかと思った。誓約か愛、どちらを選ぶのか。ロブ・スタークは愛を、ジョン・スノウは誓約を。そしてあのシーン。エンディング曲は無音なのに、ずっとみてしまうエンドロール。(*3)
 普通の物語なら、ロブの決断は正しいとされ、主人公になるべき人格を持っているように映っていた。「鬼滅の刃」でいうなら煉獄杏寿郎のようなものだ。しかも、煉獄さんが主人公のような章もあったのだ。
「~ネッド・スタークの死を皮切りに、メイン・キャラクターだろうと容赦なくその死を描いてきた~」(*1)
 もう誰がどうなってしまうのか、予測不可能だから目が離せない。さらに、構成がすごい。


クリフハンガーな終わりを多様なシークエンスで
 『ゲーム・オブ・スローンズ』の構成パターンは、上記のように何かあるかもしれない気にさせておいて、切ってしまう。いくつもの話を同時並行にしておいて、ぶつ切りでだす。
 次にその話を出したときには、前回の問題をさらりとクリアさせ、次の問題を出してくる。
 うまいのは、ぶつ切りのくせにスムーズに別の話に入る点だ。そこに違和感がない。彼らの会話している内容が次のシーンの話であったりする。
 だからといって、バラバラな話ではない。主人公らしき人物もいる(ジョン)。だが、そういう物語ではない。王座をかけた歴史の「うねり」のようなものを感じさせる。どうしてだろうか。


細部へのこだわり
 第一にあげたいのは、人物造形の素晴らしさだ。「~善悪の境界線がはっきりしていない~(略)~キャラクターは常に誰もが共感できるような行動をとるとは限らない。~」(*1)
 よって、特定の人物に感情移入することなく、フラットな目線で楽しめる。特徴や欠点がある人間臭いキャラを楽しめる。どの人物も多面的であるし、物語も多面的に展開してゆく。
 美術もすごい。こだわりの絵作りが多く、ドラゴンストーン城の撮影など、一箇所ではなく国境を超えて撮影されたのは有名な話だ。
 サムウェル・ターリー役のジョン・ブラッドリーはいう「~本のシーンなど重要でないように思えるかもしれないが、あのような場面が番組全体をぐっと盛り上げる効果をあげていると思う。キャラクターの内部にふれることができ、それによってずっとキャラクターに対して強い思い入れが出てくる~」(*1)
 そうなんだよ、サム! ハグハグ

 

制作サイド、ベイリッシュ公に内心を語らせてます?
 ピーター・ベイリッシュは権力の座につく生まれではない。彼にあるのは優れた諜報ネットワークと、政治力だ(*2)。だからだろうか、彼のセリフが制作サイドの代弁をしている気がするときがある。
「ときに私は誰かの動機を探るため、あるゲームをします。想像するのです。相手の言葉や行動に隠された最も恐ろしい理由を。そして問うのです、その理由が一体どの程度相手の言動を裏付けるか、妹君が望む最も恐ろしいことは?」(*3第七章第七話)
 こうやって物語を紡いでいるんだなあ、なんて気がしてくる。今回のブログへの回答もすでにあったので紹介して終わりたい。
「常にあらゆる戦を思い描くのです、心のなかで誰が敵で誰もが味方。考えうるすべての筋書きを心のなかで試すのです。そうすれば驚くことはありません」(*3 第七章第三話)

そうなんっすかあ…。

 


【参考資料】
*1:ムック「日経エンタテインメント! 海外ドラマSpecial ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクトガイド 第一章~最終章」日経BPムック、 2019/5/11
*2:マイルズ・マクナット (著), 酒井昭伸 (翻訳), 堺三保 (監修)『ゲーム・オブ・スローンズ:コンプリート・シリーズ公式ブック ~ウェスタロスとその向こうへ~』早川書房、 2019/12/10
*3:海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ 第一章~最終章 (吹替版)』出演キット・ハリントン, エミリア・クラーク, ピーター・ディンクレイジ他、2013~2019、HBO