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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

スピルバーグ監督「タンタンの冒険」を徹底分析 その2

映画『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』を忘れようとしている皆様へ
 わたくしは、本作こそ、スピルバーグ監督作品の集大成、ベスト盤だ、と解釈しておるものです。『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』でルーカスに妥協しちゃったフラストレーションを、ここで発散させたんじゃないかと邪推もしております。
 ですが、タンタンの冒険を批判されている方は、そこじゃないんですよね。ズバリ、見た目でしょうか?

THE ART OF タンタンの冒険

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【参考にした資料詳細は一番下をご覧ください】

 

違和感あり?!
 映画の感想を語り合うSNS「フィルマークス」には、キャラクターの造形、容姿に関する意見が見受けられます。「かなり個性的だ」「キャラクターの動きが滑らかだけどヌメヌメ感が何とも言えず違和感」「元のタンタンのデザインに慣れていたので、とても違和感が…」「生理的に気持ち悪い」などなど。
 たしかに、原作の漫画にこだわりのある方からすれば、違和感があったことでしょう。パンフレットにも指摘がありました。

「ロボット工学者の森政弘教授が1970年に提唱した“不気味の谷”理論が、そのまま当てはまる。つまり『人間にある程度似た姿と、見分けがつかなくなるまでの間に親和感が大きく減少する所があり、その谷間に落ち込むと“動く死体”を見たかのように気持ち悪く感じる』というものだ。しかし筆者(大口孝之氏)はこれに関しても『十分によく練られた脚本と適切な演出があれば、一切関係なくなるはずだ』と言い続けてきた」(*2)

 つまり、話がつまらないと感じた人には、不気味に見えたってことでしょうか?


え? つまらないだって?
 キャラクターや造形だけでなく、物語そのものがつまらないという方もおられました。とくに多いのが、終わり方について。
 「ここから最大の盛り上がりに向かって行く途中でマンガの連載が打ち切りにでもなったかのような呆気なさ」「ワクワクする一方、まだ終わらないのか……とモヤモヤ」してしまったんだとか。
 いやいやいやいや、終わり方の問題ですか? ちょっと待ってください! 原作ファンの方なら分かってくれますよね。原作の終わり方と映画の終わり方は酷似していたんです。あの終わり方こそ原作漫画「タンタンの冒険」っぽさなのです。これはこれでクリアさせてください。
 問題は、はじめにご指摘のあった見た目の方かと。


似顔絵で解決?
 前提としまして、線で描かれたものを立体にするのですから、問題はでてきて当然です。ですが、映画の冒頭でことわっておられるんです。

フリーマーケットで似顔絵を描いてもらう後ろ姿のタンタン
画家「どうぞ、けっこう特徴をとらえたって自信ありますけど?」
タンタン「うん、うん。悪くないね。お前どう思うスノーウィー?」
スノーウィーに原作の絵を見せようとするドヤ顔のタンタン(*1)

 見事な解決策です。悪くないってタンタン本人が言ってるんですから。フリーマーケットに出店している似顔絵画家の方は参考に自分の作品を後ろに飾っておられます。そこはエルジェの世界!! おお~、これ以上何を望むんですか?!

 

いかに取り込むか
 キャラクターと筋の混合具合が、原作者エルジェの特筆すべき点かと思われます。
 エルジェの作風は「単純さと複雑さが融合した」といわれます(*2)。たしかにシンプルな冒険ものに思えても、政治が巻き付いていたり、人間味のあるキャラクターが絡んだり、動きのある絵で構成されているように見えます。
 スピルバーグ監督は

「〜エルジェの作品は1コマ1コマが、映画のような語り口を持っています。すべてのポーズや動きに動的なエネルギーが存在し、あたかも24コマのフレームを1枚の静止画に閉じ込めようしたかのよう〜」(*2)

 と語っています。
 ピーター・ジャクソンは付け加えていいます。

「映像化するにあたって、犯罪ドラマ特有のレトロでシャープな雰囲気を求めていた。タンタンのキャラクターそのものというよりは、彼を取り巻く世界に通じる感覚だね。ストーリーが緊張感あふれるものだということもあって、トレンチコートに身を包んだ登場人物や雨に流される帽子、濡れた舗道に影を落とす街灯といったイメージを、タンタンが住む世界に取り入れることにしたんだ」(*2)

 いかに取り込み、いかに空想力を刺激したのか。この続きはまた次回!

 

つづく

 

 

【参考資料】
*1 DVD『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密 スペシャル・エディション』監督/プロデューサー:スティーヴン・スピルバーグ、プロデューサー:ピーター・ジャクソン
*2 パンフレット『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』東宝出版事業室、2011
*3 クリス・ガイズ (著), 山田 敏 (翻訳)『THE ART OFタンタンの冒険』(株)ムーランサール ジャパン、2011