G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

映画『ミッドナイト ラン』が似合う日

 映画は自宅のちっこいテレビなんかじゃなくって、映画館で観る想定で制作されている。漫画だって単行本や文庫本より、発売日に雑誌で読むのが一番よいように工夫されている。
 なあんて、エラそうに書いてしまったが、わたしは年に数回しか映画館に足を運ばない。漫画にいたっては、Kindleでポチってしまう。とくに最近は腰が重くなり、サブスク様には足を向けて寝られない。
 しかし、そんなわたしでも、映画館でみたい作品がある。マーティン・ブレスト監督『ミッドナイト ラン』だ。
 『ビバリーヒルズ・コップ』や『ジョー・ブラックをよろしく』の監督。主演は泣く子も黙るロバート・デ・ニーロ。『ゴッドファーザー PART II』や『タクシードライバー』の後、この作品を選んだ。サブスクやDVDじゃなく、映画館に足を運んで、パンフレットとコーヒーを買って、楽しみたい。


ちょろい仕事、やりませんか?
 タイトルはスラングで「一晩で終わる簡単な仕事」という意味らしい。人を連れてくるだけの簡単な仕事。それで1千5百万円差し上げますって、怪しいけど興味がわく。もちろん罪を犯すわけではない。
 ただ、ちょっとした訳があるという。距離が少しばかり遠いんだとか。それはまあ、仕方なかろう。一千万を超える大仕事だ。
 あと、お連れする相手の方は温厚な経理士の方だが、犯罪歴がある。え、犯罪歴? いえ、大丈夫。暴力云々ではない。知能犯で、基本的にはジェントルマンだ。
 まあ、仕事の内容は「バウンティハンター」つまり、賞金稼ぎ。
 ロバート・デ・ニーロは、「今までの出演作で一番好きな作品は?」との質問に、本作をあげている。


詳しい仕事の話を
 まず距離なんですが、ニューヨークからロサンゼルスまで、4,500キロある。経理士の方は何をした知能犯かというと、ギャングのお金を1,500万ドル横領した。で、保釈金を支払ったローン会社の方からのアドバイスとしましては、
「やつはあんたを撃ちはしない。ちょっと紙袋を頭に被せて、ゴムホースでぶん殴り、飛行機にほうりこめばいい」「夜行便で簡単に済んでしまう」仕事なんだそう。
 問題は、横領された側だ。ギャングの資金であり、お怒りなわけ。ですから、移送中に襲ってくる可能性が大。
 あと、経理士さんも、投獄されたくないわけで、逃げようとしてくる。だって、塀の中ではギャングの手下が待ち構えてますから。
 それから忘れちゃ困るのがFBI。奴らとしては経理士の証言でギャングを根こそぎ捕まえたいわけでして、こっちも追ってくる。あとですね(まだいるのかよ)賞金稼ぎのライバルも現れて、もうてんやわんや。


世間話が映画に
 脚本家が監督と打ち合わせしていたとき、何気ない世間話をした。カンザスからロスまで重罪犯を護送した友人の警官の話だ。飛行機に乗るのは苦手だと嫌がり、他の交通手段をとらされたという。何気ない会話に監督の嗅覚は反応した。キャラクターの魅力にインパクトのある物語、映画に最適と判断したのだ。
 マーティン・ブレスト監督、プロデューサーからの受けは悪いらしいが、なんせ役者からの信頼が厚い。というのも、何度も同じシーンをやり直したり、役者の即興に任せてみたり、現場を大事にする。ただ、何度も撮り直すため、疲れてしまう役者もいたらしい。だが、それも、監督の計算だったというから役者に優しい監督というのは少し違うかもしれない。
 監督は映画館で楽しむ観客に最高の一本を届けたいのだ。会社やプロデューサーの意向など、知ったこっちゃない。だというのに『ジョー・ブラックをよろしく』の後、2000年代最低作品賞にノミネートされた『ジーリ』(2003)を撮ってしまう。以来、仕事をしなくなった。


事件がおきる
 経理士を大人しく捕まえることができた。だが、飛行機に乗れないとほざく。4,500キロの移動、飛行機なら6時間ほどか。東京から大阪が約450キロとすれば、5往復ほど。それを夜行電車に高速バス、はたまたヒッチハイクしていくことになる。すると、やってくるのは、前述の奴ら。
 デ・ニーロ演じる主人公には夢がある。コーヒーショップをやりたいなって。新潮文庫版ではファミレスの経営になってますけど、細かいことはどうでもいい。ようは薄汚い連中の相手に疲れたのだ。時間に少しルーズなところがあって、うっかり恋人とのデートに遅刻しちゃうけど、約束はしっかり守るタイプ。任された仕事はやり遂げる。夢は、旨そうに食ってる家族の姿を見たいだけなんだ。

 素朴な夢、映画館で映画を観たいとか。漫画の続きが気になって本屋さんで立ち読みしてしまうとか。そんな時代もあったなあ、なんて浸りたいとき、ロードムービーの傑作『ミッドナイト ラン』はいかがか。