G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

「ゲーム・オブ・スローンズ」はなぜ面白い? オーディオドラマ化できる?!

※ご注意ください。第1章第1話だけですが、ネタバレがあります。

無駄のない第1話のストーリー

 北方の刑場、城主(エダード)自らが脱走者の死刑を行う。王の一行が来ると知らせをうける。王とエダードは古くからの友人で、王はエダードの妹と結婚する予定だった。
 海の向こう、元王子が美しい妹(デナーリス)を騎馬部族の族長に嫁がせようとしている。
 北方、王を迎え宴会となる。エダードの私生児という理由で宴席に加われないジョン。王妃の弟だが障害を持って生まれたため一族から嫌われているティリオン。二人が外で出会う。
 海の向こうでは、結婚式が終わり、無理やりの初夜。デナーリスは、ドラゴンの卵を見ながら耐える。
 北方、狩りへいく一行。塔に隠れて、王妃と双子の弟が交わる。それをエダードの次男(10才)が目撃、突き落とされる。

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 初見時、どこが面白いのか全く理解できないほど複雑に感じます。簡単にいえば、北方のエダード一族の城に頼み事がある王がやってきたよってだけの話。なのに、身体が感動しておそらく血圧も上がってる。
 不思議なことに、心が動いているのに、どうしてだか解らない。直後は騎士気分です。

簡単にいうと、王座を取り合う話

 王座を取り終えて、安寧の毎日。ある日「王の手」が不審な死を遂げ、代わりを務めるよう王から依頼されてしまう。べつに欲してないけれど、権力を手にしてしまうわけです。
 「王の手」は第2の権力者(?)です。仕事が大変なのは目に見えている。その上、息子が事故(突き落とされた)にあって動きたくない。でも、王の命令なのでやるしかない。
 王のまわりは敵だらけ、義兄弟のような自分が支えたい。トップにいる人が落ちそうだから(実際は転落している)助けたいんですね。
 落ち着いて物語を思い出すと、描いていることが死別、結婚式、出世、など人生の節目ばかり。
 位の高い人が、ギリギリの状態で人生の節目を迎えると、転落する可能性がある。だから、面白いんでしょうか? 

細かいけれど、驚異的な部分3点 

オープニングが素晴らしい!

 地図に魅せられます。鳥瞰図というのですか、まるでカラス気分。
ドラマで地理が重要になってくるため、毎回見ることができるのもいいですよね。

 あの地図、中世の地図を実際にみて研究したんだとか。中世の地図は「地図なのに謎だらけだからおもしろい。全体像が把握できていないために推測も混じる。そこで興味ぶかいことが起こるんだ」(*3 p.290)
 物語自体が群像劇っぽいため、鳥瞰図のイメージとピッタリな気がします。

 もちろん、進行だけを考えると、エダード・スターク(ショーン・ビーン)目線だと思います。何もないのに死亡フラグがたつ男ショーン・ビーン。だからこそ余計に不安で面白いのでしょうか。

 

季節の描き方がエクセレント!

 「季節の移ろい方が異なっている この世界では季節を予測することができない。ひとつの季節が短く終わったり、ずっと長く続いたりすることがあるのだ。」(*2 p.10)

 中世っぽいのに季節の長短が予測できないって、あまりない設定ですよね。

 妙な気分になるのは、四季に敏感な日本人的な感想かもしれませんが…。自然に、架空の世界だとわからせてくれます。

 

ドスラク語を外注!

 言語学の専門家に発注して作ってもらったらしいです。「言語学のエキスパートであるデヴィッド・ピーターソンによって作られ、撮影開始前までには1700語ができ上がっていた」(*2 p.63)

 言葉というか言語を外注できるって知りませんでした。

青春アドベンチャーに近い作品があった!

 2018年4月2日~4月13日に放送された「王妃の帰還」演出:小島史敬 です。(https://www.nhk.or.jp/audio/html_se/se2018007.html
柚木麻子「王妃の帰還 」(実業之日本社文庫) 2015 を元ネタに制作されています。

 上記は、暗くなりがちなスクールカーストを扱ったものなのに、ポップで最高に楽しい作品です。登場人物は女性がほとんどですが、聞き分けることもできます。
 「ゲーム・オブ・スローンズ」はいまいち主人公が誰だか解らない。群像劇のように多様な視点、というよりカラスの目線でしょうか。まさに俯瞰している感じです。
 関係ない話をしているようで、実は次の布石になっている。セリフと心情が別のところにあって、政治劇のよう。個人的にはドラマよりも、小説のほうがわかりやすい。小説では独白でキャラ本人が心情を知らせてくれます(*1)。
 これならオーディオドラマで可能ではないでしょうか。ただ、独白は得意でしょうが、なんせキャラが多すぎます。
 ですが、かつては「封神演義」をやったこともありました。やる気になれば、できないものなんてないはずです。

小説より大好きなセリフを引用して締めたい

「『ちょっとした助言を与えてやろう、私生児』ラニスターはいった。『自分の出自を絶対、忘れるんじゃないぞ。世間は決して忘れてはくれないからな。それを自分の強みにするんだ。そうすれば、決して弱点にはならない。それを鎧にするのさ。そうすれば、それは決しておまえを傷つける道具にはならない』」(*1 p.100)

 

参考文献
*1:ジョージ・R・R・マーティン 岡部宏之訳 『七王国の玉座』ハヤカワ文庫、2012
*2:日経BPムック 『海外ドラマSpecial ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクトガイド』日経BP、2013
*3:ベッツィ・メイソン、グレッグ・ミラー 藤井留美 訳『地図の博物図鑑』日経ナショナルジオグラフィック社、2020

 

※「ゲーム・オブ・スローンズ」はHBOのテレビドラマシリーズですが、1話だけなので映画と分類しました。