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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

新作落語「ほっとけない娘」woほっとけねえ!

 新作落語「ほっとけない娘」は落語家さんのオリジナルではなく、募集台本の入選作品だという。柳家小ゑん氏はそれをいまも高座でおやりになっている。ある意味、ラジオドラマより再現性が高い?!

※ネタバレがあります ※参考資料は文末に

あらすじ

 35歳になる娘の将来を心配する父親。一人旅から帰った娘は、興奮気味に素敵な出会いがあったという。結婚を期待するが、娘は「広目天」に首ったけ。邪鬼になって踏まれたいという始末。だが、本命は大仏さまだと訳のわからんことをいう。
 将来のことを考えているのかと諭すと、仏様たちに見守られて逝きたいという。「そんな先のことじゃない、結婚のことだ」父がいうと「そいうこというお父さんキライ!」
「…こういわれちゃったんだよ中村」と居酒屋に場面が変わる。中村とはよきライバルとして仕事を頑張ってきた仲だ。相談していると、中村の部下に大仏に似た男がいることを知る。居酒屋に呼んで略歴を聞くと、まるで仏教伝来だ。性格も申し分ない。「うちの娘と見合いしてほしい!」
 数日後のリビング、「ちょっとお前に見せたいものがある」といってお見合い写真をみせる父。いやいやながら、チラッとみてしまった娘は大仏似の顔に「え”!! 理想!」と大喜び。
 初デートは鎌倉。ディープに八十八ヶ所をお参りしてくる。なんでも付き合ってくれる大仏くん。一気にまくし立て、大仏くんが鎌倉でいかにマッチしているかギャグがふんだんに盛り込まれる。
 そして、ついに付き合うのかと聞くと、ダメだという。どんなことでも「イエス」というからだとか。(*1)

構成が素晴らしい

 落語を楽しんでいるときは気付かないんですけど、よくできた話ですよね。結婚して欲しいお父さんと、仏像マニアのアラサー娘。すでに面白いっす。そこに大仏にそっくりの彼氏が現れるんですから、キャラクターが立ちまくってます。
 前半で語られる娘のキャラクターが、後半のフリになっているんですね。後半の少しダレてしまいそうな部分は、ふんだんにギャグをいれる。最大限に盛り上げて、落とす。素晴らしい。
 居酒屋に場面が変わるシーンは鮮やかだし、リアルにデートの行程を捲し立てるパーツや、三部構成もスムーズ。

類推しますと

 「新作台本てびき動画その一~三」(*2)に登場する柳家小ゑん氏によると、「ほっとけない娘」は半分ぐらい変えたという。私にはどこまでが原作か分かりません。

 類推しますと、募集が原稿用紙15枚で理想は10枚といいます。1枚を1分強としても、30分ほどの落語にはなりません。半分は小ゑん氏の創作というのも肯けます。「寄席で育つ」ともいうらしいですが、もはや美しいです。

身近なのに、初体験

 昭和なお父さんも、マニアックな娘さんも、大仏さんみたいな人も、単品では見かけます。でもこれがミックスされると面白いんだなあ。今までにない発想になるんですね。考えたこともない世界に連れて行ってくれる。だから落語って面白いんですよね。

 

参考資料
*1:CD 柳家小ゑん 千一夜Vol.7「ハンダの涙・ほっとけない娘」ventain(小ゑん)2015年9月発売
*2:You Tube「新作台本てびき動画その一~三@落語協会」(出演:柳家小ゑん林家彦いち古今亭志ん五