G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

傑物声優による『ジョーカー・ゲーム』の謎にせまる

ドラマCDの出演者は傑物ばかり

 『ミッション・インポッシブル』イーサン・ハント(森川智之)に、『進撃の巨人』エレン・イェーガー(梶裕貴)、『ONE PIECEロロノア・ゾロ中井和哉)、そして『フルハウスジェシーおいたん(堀内賢雄)!
 『鬼滅の刃』からは我妻善逸(下野紘)に、冨岡義勇(櫻井孝宏)、不死川実弥(関智一)、矢琶羽(福山潤)、獪岳(細谷佳正)と超豪華。つーか、鬼滅すごい。
 そして今回の主人公、お声はスネ夫でお馴染み関智一さま。

 

ジャケットのデザイン、これでいいの?

 

※以下、ネタバレがあります。

概要

 『ジョーカー・ゲーム』のなかでも、サブタイトルもそのままの「ジョーカー・ゲーム」、小説版、漫画版、TVアニメ版を比較してみたい。あとドラマCD版も。
 物語は、陸軍から佐久間さんがD機関(D課)に任命され、巻き込まれる話。イントロにピッタリ。小説もアニメも漫画も全てこの作品から始まる。ドラマCDだけは違っていて、第2弾で登場。(第1弾は「誤算」の前日譚になっている)

ストーリー

 陸軍中尉がD機関に異動。スパイ養成学校の8人と暮らすことに。夜中、テーブルでポーカーをするもボロ負け。これは「ジョーカー・ゲーム」だったと明かされる。
 自ら考えるスパイと、自決も恐れない中尉。だが、スパイにとって目立つ殺人及び自決は最悪の選択肢。
 陸軍は、中尉に任務を与えていた。親日家のジョン・ゴードンが外国人スパイである証拠をつかめという。正式な任務命令だが、D機関は「無意味な任務だ」と一蹴。中尉があまりにいうので、仕方なくスパイたちを憲兵にしたてガサ入れ開始。
 だが、ゴードン邸のガサ入れは二度目だった。前回何もないのに、また? 怒るゴードンにもし何もなければ腹を切ってみせるというスパイの三好。
 証拠は出てこない。ショータイムの時間だ。ジョーカーを引かされたのは中尉だったのだ。自決の直前、走馬灯のように人生を思い出していると、御真影の裏を確認していないことに気づく。
 秘密をあばき、陸軍とD機関の大佐に報告する。

いざ「D機関」へ

 佐久間さんがD機関を初めて訪れたときの、建物の表現を比較。
まずは原作の小説から(*1)

「彼らが集められたのは、しかし、お世辞にも立派な施設とは言い難い場所だった。九段坂下の愛国婦人会本部裏手にひっそりと建つ古い二階屋。あたかも田舎の小学校の文教所を思わせるその建物は、壁のペンキの塗りは半ば剥げかけており、古色蒼然とした入り口の柱には『大東亜文化協會』という小さな木札がとってつけた様にぶら下がっているだけだった。」

 質素というか、とてもお粗末な建物のイメージ。これを漫画で読むと、全く印象が違う。
 建物の説明はないが、絵からは小説のように「裏手にひっそりと建つ古い二階屋」には見えない。少なくとも三階はありそうなレンガ造りの建物。電線が走り歩道まであるオフィス街もみえる。
 看板も立派だ。「小さな木札がとってつけた様に」なんて、とても見えない。(*2)
 アニメでは建物は、裏手でもなんでもなく、路面電車まで走っている表通り。しかも、めちゃ立派な建物(4階建?)。階段も石造りで凝ったものにみえる(廊下も)。
ドラマCDでは警視庁ということもあり、立派な建物の一角かと。(*3)
 どうしてこんな違い作る必要があったのか。

桜の表現がキレイ

 終わりに出てくる美しい表現部分も比較してみる。

参謀本部の暗い廊下を抜け、建物の外に出ると、満開の桜であった。
民間人の視線を遮る高い塀が参謀本部の周囲に廻らされているのだが、その塀越しに今を盛りと咲き誇る桜が枝を伸ばしている。
佐久間は目を細め、一つ大きく息をついた。」(*1)

 文学的ですらある。参謀本部の体質がにじみ出るような暗い廊下。そこから出ると、桜が満開なわけだ。何もしらない兵士が桜の花びらのように散っていく。そんな物悲しいイメージ。そこに佐久間の決意が地面を這う雑草のように力強い。
 では、漫画はというと、暗い廊下という印象は受けない。外にでて満開の桜の樹の下を通る。

「ただ…(桜を見上げ)駒として使い捨てられるのはごめんだ」(*2)

 このセリフはモノローグとして小説にもある。桜が満開だ。散っている花びらも描かれる。
 アニメは一番豪華だ。ただ、暗い廊下はなく、桜並木を歩くと塀が見える。セリフは漫画と同じだが、横を陸軍の部隊が行進するのを見せてから(漫画にもこのカットはある)。
 当然だが、ドラマCDにこんなシーンはない。あえていえば、アイドルのコンサートでふる光る棒が、桜に見えなくもない。気のせいか。

ちがいの原因!?

 ラスト桜のシーンの比較をしてわかったことがある。作り込みの密度がまるでちがう。それは小説や漫画といった媒体にあわせてのことだろう。
 だが、D機関の建物デザインを変更したのはなぜか。
 漫画とアニメを比較した場合、何よりも違うのは鑑賞の速度だろう。アニメは早送りをしない限り相手の時間で進むが、漫画はこちらのペースだ。そして往々にして漫画の方が早い。作り込まれたアニメに対して、サクッと理解する漫画。(異論はありそうだが)
 その前提で考えると、映画とオーディオドラマの関係も似ている気がする。細部まで作り込まれた映画に対して、サクッとイメージするオーディオドラマ。
 思うに、建物のデザイン変更は、動きがつけにくいからではなかろうか。細部まで描くアニメにおいて、路面電車が走るだけでもガラリと気分が変わる。裏手にひっそりと建つ場所だと、そんな表現をしにくい。第一、逆に怪しい。

 

参考資料
*1、柳広司ジョーカー・ゲーム角川書店、平成20
*2、原作 柳広司 漫画 仁藤すばる『ジョーカー・ゲーム THE ANIMATION①』マッグガーデン、2016
*3、ドラマCD『ジョーカー・ゲーム』「警視庁D課捜査ファイル」株式会社KADOKAWA、2016