G-EXPERIENCE

体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

アナキンはBMW、オビ=ワンは中古車

スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐

 すでにある史上最高の映画につながる三作目。主人公をいかにダークサイドへ堕とすのか。どうしてあんな黒尽くめのマスク姿になってしまったのか。わたしの中の野次馬メンタルが発動してしまう。
 ジョージ・ルーカスは語ります「よい少年から始まり、2作目では多くの苦悩と不満を抱えるようになった。今回の作品ではそれがすべて形になって現れる~」と(*2)。「自分では善を行っていると信じている人間が、どのようにして邪悪な存在になってしまうかこそが問題だった~」。最新シリーズ『オビ=ワン・ケノービ』の10年前、一体何があったのか。細部へのこだわりから覗いてみませんか?

※ネタバレを含んでいます(参考文献は文末をごらんください)

あらすじ

 ジェダイとして大活躍中のアナキン、恋人に赤ちゃんもできる。ラブラブの二人なのだが、悪い夢をみてしまう。彼女が死んでしまう予知夢だ。
 仕事は順風満帆で議長からの信頼もあつい。ジェダイ評議会のメンバーにも選ばれる。だが、彼女の夢が気になりイライラしっぱなし。シスである議長はその隙につけこみ、アナキンをダース・ベイダー卿にしてしまう。オーダー66が発動され、各地にいるジェダイが殺される。
 アナキンがシスになった。彼女も師匠のオビ=ワン・ケノービも信じられない。だが証拠をみてしまう。ついに二人の師弟は対決し、地の利を得たオビ=ワンが勝利する。ズタボロにされたベイダー卿は黒服に身を包み、マスクを付けることになる。(*1)

殺陣が語ってくる

 ちょっと長い映画ですが、退屈は感じません。なんたって、戦闘シーンが映画全体の4割近くもあります。
 なかでもラストに用意されているオビ=ワンとアナキンのムスタファでの決闘。パンフレットには殺陣を担当したスタント・コーディネーターのニック・ジラード氏による意図が書かれています。「~互いに相手の動きが読めているんです。最初の3、4分こそ派手に動きますが、後は自分自身と闘うような状況が続きます。~(略)~まるでガールフレンドと喧嘩しているように、ひたすら相手の攻撃に耐え続ける感じに~」(*2)アクションで二人の感情をこちらに伝えてくれます。

アナキンはBMW、オビ=ワンは中古車

 動きも素晴らしいですが、音もすんげーっす。音でキャラクター造形を支えていることが実感できるシーンがあります。冒頭のジェダイ・インターセプターでの戦闘シーンっす。
 サウンド・エフェクトを担当したベン・バートはいう「アナキンのはBMWで、飛ぶのが嫌いなオビ=ワンのは中古のレンタカーって感じですね」(*2)実際に聞いてみると、よくわかりません。「アナキンのそれはホットロッドのような甲高いホイッスル音で、オビ=ワンのは、緩んだパーツがある古いトラックのようなガタガタした音が聞こえる。さらにコクピットにある物が揺れるような音や、ギア・チェンジを行っているようなイメージも付け加えている」ということらしいんです。車の音だけでなく、様々な音を組み合わせたらしい。(*2)
 さらに、この機体が後の帝国軍タイ・ファイターの先駆であることを考慮して「~急ターンに入るときには一瞬、タイ・ファイターの爆音を聞かせている~」これは聞き取れます。
 言えることは、細部へのこだわりがあったればこそ、あの絵作りになるってことですね。

フランケンシュタインの研究所

 ダース・ベイダーの改造手術のシーンも音へのこだわりがあります。「フランケンシュタインの研究所みたいなところです。」というのは再びベン・バート氏。彼はフランケンシュタインの研究所の装置がたてる音を録音したことがあったという。

 「ここも同じようにある男が自分の体が組み立てられていって、手が動くというシーンですから、それでこの録音の一部を使ったんです。いろいろな意味で過去の遺産に由来しているんですよ」(*2)
 だとしても、よく連想できましたよね。ベイダー卿がマスクを付けるシーンですよ。君がやってくれたまえ、なんてルーカスから言われたわけですよね。興奮しすぎて鼻血でしょ。それを冷静に、アナキンに何があってベイダーになったのか。あのベイダーを一旦忘れて、分析されたのでしょう。で、体が組み立てられている! と。もともと火花や稲妻の音は考えておられたそうです。いやあ、あのシーンは凄かった。

ヨーダ「執着をすてよ」

 監督はアナキンの問題の根源に「執着を捨てられない」ことを指摘しています。(*2)自然の摂理や、仏教的な考え方で、ヨーダもアナキンへ似たアドバイスしています。(ルーカスって自分のことヨーダだと思ってます?)

 最愛の人が死ぬかもしれない、どうしたらいいの? という質問に対しヨーダは「自らの心を鍛えるのじゃ、失う恐れ、執着をすてよ」(*1)うつむいててしまうアナキン。
 どうしても最愛の妻を死なせたくない。そのためなら、他者を犠牲にしてもかまわない。現代において、なお突き刺さるテーマっすねえ。
 後にルークがアナキンに勝ったのは、父親の中に善があると信じたからですよね。その愛こそが、彼をダークサイドから引き戻した。
 現代の日本、敵と思しき相手のなかに善があると信じ、ダークサイドから引き戻そうとするジェダイはいるんでしょうか。とかいいながら、落ちてゆくヒーローをみたいっすよね。ぐへへへ。

 フォースとともにあらんことを。

 

【参考資料】
*1;ジョージ・ルーカススター・ウォーズ エピソードⅢ』「シスの復讐」2005年、Disneyプラス
*2;パンフレット『スター・ウォーズ エピソードⅢ』発行:東宝(株)、2005