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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

映画『フロッグ』をロジカルに分解する〈前編〉

 『フロッグ』最高に面白い映画です。何度も観ていると、構造に美しさを感じる部分がありました。シナリオがロジックに構成されているのです。このロジックを分解すれば、人間の感情を見える化できてしまう、のではないでしょうか。
 注意! 間違いなく、ネタバレしないで観たほうが面白い映画です。以下はシナリオを分析させてもらうためネタバレしまくり。

あらすじ
 物語は大きく3幕構成です。1幕目は金持ち一家と彼らが住む街で起きた事件。2幕目はフロッキングしていた若者からみたネタバラシ。3幕目は短く、彼らをつなげて終わります。3幕目は、短いので置いておくとして、1幕2幕をこのブログでは前後編に分けて考えてみることにします。

前半
 ホラーっぽい音楽に美しい豪邸。アメリカの田舎町は、美しい川やサイクリングロード。自転車にのった少年が宙に浮く!? まずは登場人物の紹介をせず、状況から教えてくれます。
 豪邸の朝食はホットケーキだろうか。この母親、焼くのは久しぶりな感じ。息子はイライラしていて、母はお金の心配しかしていない。でかけた母、父はリビングのソファで寝ていたらしい。違和感たっぷりの朝の風景です。
 階段の下から上まで飾られたオシャレな家族写真、なぜか一枚抜けている。
 夫のスマホがなる。妻からの電話らしい。電話を切るとなぜかブチギレ、スマホを投げ捨てて窓を割ってしまう。夫は刑事で、この町で起きている誘拐事件を担当することになる。同僚との会話から、妻と少し前からもめていることが伝わります。ここで主な登場人物のキャラと説明が終わっている。同時に家族の問題も見えてくる。
 妻が大事にしている銀食器がなくなる。窓の修理人が盗んだかもしれないが、夫は冷たく取り合ってくれない。息子に聞いても、盗んだのは浮気相手か? と怒りをぶつけられる。
 夫は自宅で飼っているハムスターを追いかけ、クローゼットに閉じ込められてしまう。息子はいない。家中を確認する。妻、夫に謝罪して、やり直したいと懇願する。ゲストルームで寝る夫。とりあえずソファではなくなりました。
 ゲストルームで眠る夫の布団がズラされる。朝、起きるとおねしょ?! 誘拐事件捜査のため、かつて逃げた少年に話を聞こうとするが怖がって何も話さない。
 ここから実質的に物語が始まります。次第に盛り上がり、とんでもないことになっていく。
 まず妻の前に浮気相手が来てしまう。息子がいる自宅にだ。別れ話をしても通じない。上からマグカップが降ってきて浮気相手に直撃。地下室で休ませることに。
 車で息子を送ろうとガレージを出ようとすると女が! 誘拐事件にあったクラスメイトの母。進捗状況を尋ねられる。危ないところで別の話になります。
 妻が息子を送り、地下室に戻ると浮気相手は瀕死の状態。息子がやったと確信している妻は、夫にすべてを話して助けを求める。二人で浮気相手を山中に埋める。
 息子が部屋にいると、妙な音に気づく。後ろに影が見える。クライマックスかとハラハラさせられます。
 夫婦が戻ると、バスルームに白目でぐるぐる巻きの息子。夫はピストルを構えて家探しへ。同僚が迎えに車でむかっている。ここで前半が終わります。
 これだけでも、一本の映画をみたくらいの疲労があります。まだ44分しか経っていないのに。(*)


ほころびの繕い方
 この映画、正直、ギリギリです。観ているときは気づかないのですが、もう少し家族の会話を続ければ、修正できたかもしれないんです。リアリティはあるんですが、現実的には起こりにくいでしょうね。だけれども、そうは思わせない美しさがあります。
 まず絵作り。タイトルがでるまでに、俯瞰での映像が意味深。一見美しいんだけど、人工的すぎてなんだか怖いです。
 夫婦でもめている様子も、直接見せず、ベッドが別であるとか、同僚が心配してくれる様子でわかる。建物も人物も、俯瞰でみせていくことで、誰かに感情移入するのを防いでいます。
 セリフの掛け合いが、妙にスリリング。息子は父親の味方をしていたのに、閉じ込めるあたりから、不協和音が聞こえだします。何かいるという演出も見事。
 ほかにもストレスを抱え、薬を飲んで眠る父親だが、おねしょしてしまう。ネタバレすると、小水をかけられていたんだけれど、ここでは心が不安定なのかと同情してしまう。
 冒頭でも述べたように、物語の構成にはスキがあります。スキを点かれそうになると、他の問題を出して乗り越えているんです。その出し方が見事で美しい。観ている側の心の隙をキレイについているんです。


感情のコントロール
 予備知識なしでみると、ホラーかな、幽霊が出てくるのかなとドキドキの前半。謎の部分は何とでも取れそうで、回収できなさそう(してくれますけど)にみえます。
 ただ、わかりやすい映画なのに、踏み込んで読み解かないとわからない部分もあります。説明するシーンが少ないんですね(詳しくは後編で)。


ラジオドラマで聴きたい!
 これをラジオドラマでやったら、とんでもないんじゃなかろうか。迫りくる足音を想像して鳥肌ものだろう。
 同じセリフなのに、前半と後半でその印象が変わる作品。まさに「恐怖が快感に」なるかも!? でも、あそこまでのフリを音だけでいかに回収するか、どう見せればいいのか。後編では映画が実際に取った方法をご紹介します。

 

後編へ続く

 

 

【参考資料】
*アダム・ランドール監督『フロッグ』出演ヘレン・ハント, ジョン・テニ-, ジュダ・ルイス2021、Prime Video(オンラインビデオをストリーミング再生)