ヒッチコック「救命艇」をオーディオドラマでやるなら
ストーリー
ドイツUボートに沈められ、命からがら救命艇に乗り込む一般市民たち。そこへ敵のドイツ兵が流されてきて救うことに。コンパスがないため、ドイツ兵に頼るしかなく憤る人たち。だが、元医師だったというドイツ兵に外科手術も頼むことになってしまう。次第に信頼してゆくのだが、ドイツ兵はコンパスを隠し持ち、味方の補給艦へと誘導していた…。
注意:ネタバレがあります
注目のシーン
飢えと渇きに苦しみ、どちらへ行けば良いのか解らない市民たち。敵のドイツ兵は平気な顔をして漕ぎ続けます。後に、水と食料、コンパスの所持が判明。市民たちは一斉に襲いかかる…。
殴られている様子は描かれていません。ですが、殴っている背中の絵が強烈で、みんなで殴る。しかも、温厚そうな看護師が口火を切ってしまう。まさにリンチです。
ハイエナの背中だけが見えているような強烈なイメージ。
そこまで、市民たちは理性に訴えようと懸命に努力していました。そこをひっくり返すような展開に、心が震えます。人間ってなんだろうと。
こんな感情にさせる仕掛けはどこにあったのか、分析してみました。
実験的に鑑賞
映画を観るときに、初めての試みをやってみました。1回目は画面を見ないで音声だけ、2回目は映像とともに鑑賞してみたのです。
実験の前、同じ映画を1週間以内に2度もみて、しかもヒッチコック作品であるから、2度目はつまらないのではないかと予想しました。
ユニークな結果になったのです。2度目の方が面白いんですね。1度目、音声だけだと、本当にヒッチコック作品かと疑うほど退屈だった。
映画の見どころは、やはりリンチ行為であり、そこに至る過程は理性的な話し合いだからでしょうか。スリラー映画というより、人間ドラマになっていたから?
それらもあるかもしれないが、以下2つの理由を考えました。
オーディオドラマにならない?
①音楽がない!
驚いたことに、サウンドトラックがないんですね。これは本当に盛り上がらない。映画音楽の重要性を再認識しました。
②救命艇の外から写すシーンはなく、内部からのみ
人物のアップが多く、会話劇になっています。これはオーディオドラマ向きな気がするのですが、リンチ行為の絵がこの映画の核です。
それらは言葉とは真逆の行為なんです。であるから、鑑賞者は行為から心の動きを読み取らなくてはならない。音と声だけを信じては、それができなくなってしまいます。
②に答えてみます
海上に漂う一隻の救命艇の上だけでドラマが展開するんですね。つまり、一幕ものといってもいいかもしれません。会話劇を楽しむものです。それが音声では辛い、というのはどうしたことか。
音声には状況の変化が必要なのでしょうか。
映像なら、人物をアップで撮ったり少し引きにするだけでも、ドラマが生まれるかもしれません。ですが、音声はどうでしょう。同じ場所であるなら、退屈になってしまう気がします。
このドラマはほぼアップで撮られています。音声にズームは使えないですから、一定のアップのみ、場面も同じ。
かといってこれを変えると、全体のつながりや流れはキャラクターに集約されているので変になりそうです。
オーディオドラマならこうする?!
単純にモノローグを増やして感情の揺れを足しておく、のも一つの手でしょうか。
敵の補給艦に助けられ、ドイツの捕虜になるシーンがあってもいいかもしれませんよね。数の上では、圧倒的に優位だった一般人たちが、逆転されてしまう。が、今度は自分の味方の戦艦に襲われ、敵の救命艇にのる羽目になってしまう。なんてどうだろう。うーん、乗せてくれないか。