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体験した気にさせる物語ってどうなってるの?

スピルバーグ監督『タンタンの冒険』を徹底分析

 冒険がしたい。
 と、何の説明もなく書くと多くの人は、「行けばいいんじゃね」と首をかしげるかもしれない。最近ではコロナ規制も緩和されてきた。どこへでも行けばいい。
 確かにどこにでも行ける。しかし、冒険はできない。あなたが日本在住なら思い出してほしい。まず日曜の朝、玄関から外へでる。道幅が狭く、電線が絡まりいかにも日本の下町。石畳じゃなくツギハギだらけのアスファルト舗装だ。ちがう、こんなんじゃない。
 もっとカッチョイイ冒険がしたい! そんなあなた、映画『タンタンの冒険』はいかが?

あらすじの前に
 映画『タンタンの冒険』を観れば、リビングで気楽に冒険の体験ができてしまう。我が家では、スピルバーグ監督作品を知らない子どもたちを夢中にさせた。
 この物語はオリジナル作品「なぞのユニコーン号」「レッド・ラッカムの宝」「金のはさみのカニ」からインスパイアされた。だから原作マンガも大切だ。もちろん読んだ、言いたいこともある。でも、映画には特別な技術が使われた。だからこそ生まれた物語体験でもある。これも書きたい。何よりインディ・ジョーンズとのこともある。ええい、言いたいことは山ほどあるが、まずはストーリーの素晴らしさを書かせてほしい。


Amazonに掲載されている【ストーリー】

莫大な財宝を積んだまま忽然と姿を消したと噂される伝説の帆船、ユニコーン号。その模型を偶然手に入れた少年記者タンタンは、怪しい男サッカリンに拉致されてしまう。
サッカリンは、模型に隠された巻き物の暗号を解き、失われた財宝の在り処を暴くことを企んでいたのだ。
サッカリンが乗っ取った船、カラブジャン号の船内で目を覚ましたタンタンは、船長である酔っ払いのハドックと力を合わせ、船からの脱出を試みるが…。

未鑑賞の方はご注意を
以下ネタバレしながら、すごいところを列挙させていただく。


4つの物語がドミノ倒しのように連鎖しとる!
 1つ目は、主人公のタンタンが帆船ユニコーン号の模型を手に入れたところから始まる。模型を気に入ったタンタンでしたが、怪しい男(サッカリン)に高額で譲ってくれと頼まれる。何か謎があるらしい。図書館で調べだしたタンタンの家から模型が盗まれてしまう。
 サッカリンが住むムーランサール城へ。模型を取り返しに行くのだが、そこには形は同じだが別のユニコーン号があった。どうして同じものを欲しがったのか。
 帰ってくると家財はめちゃくちゃ。家探しをされたらしい。模型のマストから落ちたメモを見つける。これを探していたのだ。

 2つ目の話。二人の刑事がスリを追っている。ご存知デュポンとデュボンだ。メモを財布にしまったタンタン、財布ごと掏られてしまう。落ち込むタンタンだったが、悪党に捉えられ、船に連れていかれてしまう。暗闇から登場したのはサッカリンだった。刀でおどされ、メモを渡すようにいわれる。助けに来てくれた犬のスノーウィーと一緒に船底から抜け出す。

 3つ目の話。抜け出した先、ある一室でユニコーン号の秘密を受け継ぐハドック船長と出会う。だが、彼はアルコール中毒でひどいありさま。一刻も早く船から逃げようとする二人。抜け目がないタンタンは、船の目的地を盗み見る。

 なんとか脱出ボートに乗り込み、船出する。寒い海上、さまよう二人と一匹。追手の飛行機が撃ってくる。逆に飛行機をうばい、先に目的地へ向かおうとするが、嵐にあって砂漠に墜落してしまう。

 で、最後の話。砂漠を歩くハドック船長はもう限界。ご先祖様が乗り移ったようになり、「レッドラッカム!」と叫ぶ。サッカリンこそ、かつての裏切り者レッドラッカムの子孫だったのだ。目的地で最後のメモをゲットしたが、サッカリンに出し抜かれてしまう。落ち込むタンタンに、ハドック船長は勇気を与えてくれる。最後の戦いが始まったのだ。

 勝利した二人と一匹はついにお宝を見つけるのだった。

 

構造を分析
 4つに区切ったパートはどれも似た構造をしている。新しいキャラが出てきて、状況を説明していると展開して、アクションで盛り上がり、次へ。全く飽きることなく、見ることができる(砂漠のパートが少し弱い?)。それだけでなく、大きな流れにもなっているから登場人物が多くても戸惑うことがない。天才的なシナリオ術だ。


冒険にでかけるなら、まず部屋を暗くする

 冒険に必要なのは「暗さ」だ。本文の冒頭、日本の下町から冒険はできないと述べた。しかし、小雨が降る夕方から出発すれば一気に冒険になる(気がする)。

 エルジェの原作版では暗闇の質感はなく、可愛らしくワクワクする絵になっている。読書ならこれでも楽しい。でも、本当に冒険を体験したいのなら、映画版がおすすめだ。何と言っても暗闇の質感がある。

 

つづく

 

 さらに面白さの原因を追求したいので、来週も「タンタンの冒険」をとりあげさせていただきます。